愛をさがす私のための6つのお話。よっつめ。
【無くしてから初めて愛を知った人のお話。】



 たった一人になってから気づいたかなあ。
 私、愛されてたんだなぁって。
 私を怒ってばかりの親父だった。あれをしろ、これをしろ、それはだめだってうるさくて。
 褒めることはないの。全然ない。「ん」とか顎でしゃくって横目で見て終わり。
 思いのままに育たない娘がそんなに嫌かって思った。
 だから、ね。ちょっと出来心だった。
 友達からもらった薬、なんだかインターネットで売ってて適当に買ったヤツを、いつもアイツが
呑む酒に入れちゃった。腹でも下せばざまあみろと思って。
 薬との相性っていうの?
 まっさか死んじゃうなんて全然思ってなくって。
 もうドラマみたい。目の前でコップ落としてうんうん唸りだして。初めはいい気味だと思ってた
けど、どんどん真っ青になってくし、なんかただ事じゃないってカンジでこっちもマジビビッて。
 大丈夫、とかって叫んで駆け寄ってんの。
 薬入れたのはお前だろってハナシ。
 でも、もうホントにそれどころじゃない。
 苦しがり方があんまり異常だから慌てて救急車呼んで。
 もうオレは駄目だなんて言うから、なにいってんのって励まして、でも救急車が来る前に死んじ
ゃった。
 最後の言葉なんだったと思う?
 私の胸倉がっと掴んで「薬を飲んだのは俺だから。いいな」よ。
 びっくりしすぎてこっちが死ぬかと思った。
 反論しようとしたらもう死んでんの。もうふざけんなって思った。
 死んでから家の整理してたら、通帳が出てきた。
 あたしの名前で、笑わないでね?、結婚費用とか貯めてたみたい。
 もう馬鹿じゃないのって。
 金がない金がないってずっと言ってて、これっぽっちも贅沢なんかさせてくれなかった。
 欲しいものがあったからエンコーしたら、マジで殴ってきたし。
 ここにあるじゃん、金って。
 アイツの呑んでた酒がね、スーパーで紙パックに入ってるようなやっすい焼酎なわけよ。
「たまにはいい酒が呑みたい」なんて言ってたくせに、最後のときもソレ呑んで死んだわけよ。
 もうホントに馬鹿じゃないのって。








 今でも道に迷うと親父のこと考える。
 甘ったれるなって声がするのは気のせいじゃないと信じてる。








                                   
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