DTH

 組み合わせがわかった瞬間、英雄はにやりと笑った。
 見れば、ダルジュの口の端にも笑みが浮かんでいる。もっともそれはすぐに消えてしまったのだけど。
「じゃあ、開始までに僕らは別室に行こうか」
 英雄はそう言って、ダルジュの背を押した。いやに上機嫌に見えたのは気のせいじゃないとはハンズスの弁だ。
「勝つ気、デスネ」
 取り残されたアレクがぽつりと呟いた。
「俺も負ける気はないぞ」
 ハンズスが眼鏡を外してスポーツ用ゴーグルに付け替えた。その言葉を聞いたアレクがにこりと微笑む。
「ハンズス、よろしくデス」
「ああ、頼む」
 アレクの差し出した手を、ハンズスが固く握った。


 ウォーターガンから出る水は、それなりに飛ぶようだった。
「わ、すごい」
 外に向けて引き金を引く。ゆるやかに飛ぶかと思われた水は、意外とシャープなラインを引いて傍の木にぶつかった。
「ほどほどにしておくんだな」
 位置が知れる、とセレンが呟く。あの後、二階に上がったセレンは、フロアを見渡して、この場所を選んだ。
 元はオフィスで使われていたらしいロッカーが、山と積まれてる。ちょうど真ん中にぽっかりあいた空間にいるのがオレ達だ。
 試し撃ちは外に向けて一発だけ。でないと、水の軌道で場所がわかると言っていた。
 英雄とハンズスが用意したウォーターガンは性能がいいらしい。
「各自で武器調達なんてさせたら、何を持ってくるかわからないじゃないか」
 と英雄は言っていたけど、これだって捨てたもんじゃない。水圧の調整さえしっかりすれば、距離も稼げそうだった。
 オレはセレンを見上げて聞いた。
「セレンは? やらないの?」
「遠慮しておこう」
 渡そうとしたウォーターガンを受け取りもしない。
「それより、これを」
 ゼッケンをオレに手渡す。
「オレが?」
「どちらでも構わないが」
 オレはちょっと考えた。なんだか的になるのはいい気分じゃない。
「セレンでもいい?」
「もちろん」
 掠めさせる気もないんだろう。セレンは優雅に微笑んだ。
 セレンにゼッケンを結び終えた時、どこからともなくベルの音が聞こえた。

 開始の合図だ。

 同時に、ロッカーの上に二つの影が躍り出る。
「くたばれ!」
 あんまりな言葉と共にウォーターガンを構えるのは、ダルジュだ。その胸に、ゼッケンが巻かれている。
「速攻だ! 決めさせてもらう!」
 英雄もセレンに狙いを定めた。
 山と積まれたロッカーを駆け下りるダルジュに向けて、オレも引き金を絞ったけど、まるで当たらない。勢いのある水弾を避けて走るダルジュは、セレンを容赦なく撃った。セレンがさらりと身をかわす。その動きを見越したかのような、英雄の水弾がセレンの髪を掠める。容赦のない攻撃に、セレンの隣にいたオレはあっと言う間にずぶ濡れになった。
 避けるセレンはすごい。けど、この状況でも、セレンはウォーターガンに手を伸ばそうとはしなかった。
 なんでだ?
「セレン!」
 どうして撃たないんだろう。オレの顔色を読み取ったダルジュが叫んだ。
「ムダだぜ! ソイツはノーコンだからな!」
「当たらないさ。絶対に」
 ダルジュの言葉を英雄が肯定する。
「え?」
 オレがセレンを見上げる。と、同時にセレンの指先が動いた。
 ゆらり。
 二人が足場にしていたロッカーの山が瞬断された。崩れるロッカーに巻き込まれた二人が、バランスを崩す。
「いってぇ……」
 ロッカーに半分はまったような格好で、ダルジュが呻いた。
 痛みにしかめた目を、開く。その眼前に、セレンがいた。ダルジュが嵌ったロッカーの上に立つ。その姿は穏やかながらも殺気が滲んでいた。
 手に、水圧を高めまくったダルジュのウォーターガンを持ってる。
「セレ……」
 気づいたダルジュの顔が青ざめた。
「ノーコン、か。まあ、事実だな。だが」
 銃口を愛おしそうに指でなぞりながら、セレンは言った。唇が妖艶に微笑む。
「さすがにこの距離で外すことはあるまい」
 言いながら、ダルジュのゼッケンにウォーターガンを押し当てる。
「おい、待……」
「聞こえんな」
 セレンの瞳が残酷に光る。後には、ダルジュの絶叫が響いた。
「ね、セレンにはノーコンって禁句なんだよ」
 と隣に来た英雄が言った。
「お前、ダルジュ助けなくてよかったの?」
 英雄はちらりとオレを見て言った。
「自分の命は惜しいさ」
 なんて軽い絆だ。
 オレが嘆息した時、セレンのゼッケンに水がかけられた。
「あ!」
 オレが叫ぶと同時に、アレクが姿を現す。いつの間にか、ロッカーの陰に潜んでいたらしい。
「油断大敵デス!」
「……やられたな」
 セレンが変色したゼッケンを見ながら嘆息した。
「な。絶対潰しあうって言ったろ」
 ハンズスが言いながらアレクに駆け寄る。二人はにこやかにハイタッチした。
「ハンズスはなんにもしてないじゃないか」
 英雄が言う。アレクがにこりと微笑んだ。
「作戦立ててくれまシタ」
「お互い長所を生かそうって決めたんだ」
 ハンズスが胸を張る。
「それにこれで終わりってわけじゃないだろ。チームを変えて何度かやればいいわけだし」
 そう言って、再びクジを取り出そうとした。
「ダルジュが目覚めたらな」
 セレンが顎でダルジュを示す。
 みんなが振り返ると、棺桶よろしくロッカーから半身を出したダルジュが、そこで伸びていた。


【真夏のSTAY&GO! Bルート完結】
2009.7.12-19
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