DTH

DTH番外 「真夏のSTAY&GO!」

 夏の訪れを感じさせるのは、サンサンと輝く太陽でも青く深い海でもなく、女性の露出が過激になることだと英雄は言った。言ったそばからマージに平手をくらっていたけど、まあ事実ではあるようにも思う。
「クレバスに夏らしい遊びのひとつでも教えてやったらどうだ?」
 ハンズスがそう英雄に言った。
「夏らしい?」
 英雄が眉を寄せる。
「どうせお前、プールも海も連れて行かないんだろう? それじゃあんまりだ」
「クレバスが行きたいってんなら連れてくよ。僕は泳がないけど」
 泳がないどころか上着も脱がない気に違いない。
 英雄が不満げに返事をすると、ハンズスが「それじゃ意味がない」と切り捨てた。
「一緒にやることに意味があるだろう?」
「一緒にねぇ…」
 英雄が考え込む。
「夏かあ、夏、夏。クレバス、なにかあるかい?」
 急に言われたって思いつかない。
「水鉄砲とか?」
 オレはそんなに深く考えて言ったわけじゃない。
 なかったけど――それが全てを決定してしまった。


 夏休み。英雄とハンズスに連れられて行った先は、郊外のコンクリートがむき出しになっているビルだった。辺りに人っ子ひとりいない。山林に放置されたそれは、もう誰も使っていない廃墟のようだ。
「こんな手ごろな物件があるなんてなあ」
 英雄が感心したように言う。言ってるだけでじっとりと額に汗が滲んだ。
「正式な使用許可も得てきた。多少なら傷つけてもかまわないとさ」
 ハンズスが大きなスポーツバッグを抱えて車を降りた。いつものスーツにネクタイじゃなくて、白のVネックにジーンズをはいてる。それだけでも随分雰囲気が違った。
「わざわざこんなとこで何やるんだ?」
「水鉄砲だよ」
 英雄がにんまりと笑う。と、バイクのエンジン音がして、アレクが現れた。
「アレク!?」
 いつもブーツを履いているのに、スニーカーなんて珍しい。格好がどことなくラフだ。首周りに赤のラインが入った黒のTシャツが似合ってる。
「さすがだな、時間通り」
 英雄が時計を見て微笑んだ。
「他ハ?」
「たぶん、中に」
 英雄があごで中を示す。ビルの入り口に、ダルジュとセレンがいるのが見えた。
「二人ともいつもの格好だな。汚れるって言ったろう?」
「俺は構わねぇよ」
「私もだ」
 ダルジュはともかく、セレンは汚れる気すらなさそうだ。
 英雄を見上げる。
「なあ、なにするんだ…?」
「だから水鉄砲だって」
 英雄がウィンクする。何を考えてるのかさっぱりだ。
 廃墟を見上げる。元は6階建てくらいのビルだったんだろう。汚れてはいるけど、朽ちてはいない。微妙なあんばいだった。
「ここが戦場だ」
 英雄が至極満足そうにそういった。
 
 
「STAY&GOのルールは簡単。二人一組でチームになって、そのうち一人がゼッケンを身につける。ほら、ダーツの輪みたいなのが書かれているだろう? これは水に濡れると赤く変色するから、輪の中をやられたらアウト。通常はそれを守るためにオフェンス、ディフェンスを分担するのが常だけど、二人ともオフェンスに回るのもアリだ。もちろん、逃げの一手に興じるのもね。ルールはひとつ。ゼッケンは必ず見える場所に装備すること。服の下にして隠すのはNGだ。水鉄砲は初めから中に水が入ってる。補給は水道管からやってくれ。他、施設内にあるものは自由に使ってくれていい。あ、エリアは施設内限定だよ」
 英雄がざっと説明して皆を見渡した。
「質問は?」
「ペアはどう決める?」
 ダルジュが聞いた。英雄が答える前にセレンが「私は一人のほうがやりやすいがね」と呟いた。
「ペアでやるからハンデが生じて面白いんだよ。そうだな、クジででも決めるか?」
 英雄に聞かれたハンズスが頷いて、「一応作ってきた」と答えた。
 ふうん、クジかぁ…と思った瞬間、手を伸ばす前にひょいと持ち上げられた。
「私はこの子と組もうか。他は自由に決めるといい」
 セレンだ。
「は?」
 オレも含めたセレン以外の全員が目を丸くした。
「ゼッケンをもらうぞ」
 呆然とする英雄の手からゼッケンを受け取ったセレンは優雅に微笑んで、オレを抱いたまま背を向けた。
「開始は、……そうだな、十分もあれば準備出来るだろう。十分後だ」
 その後振り向いたセレンの顔はオレには見えなかったけど、英雄達を青ざめさせる位の迫力はあるようだった。
「せいぜい逃げ回れ」
 どこか残酷味を帯びたセレンの声を聞いて、選ぶゲームを間違ったんじゃないかとオレは思った。


 その後のことは、英雄や皆から聞いたことも含めて、話を続けていきたいと思う。
 なにしろオレはセレンに連れて行かれてしまってほとんど皆と別行動だったわけだし。
 英雄は「なんのために来たのかよくわからないよ」と頭を抱えたらしい。どうやらくじに細工をしてでもオレと一緒になる気だったようだ。
「まあ、たまにはいいじゃないか」
 なだめながらハンズスがクジを引かせた。
 それぞれ、手を伸ばし引いた結果は…


 A:英雄・ハンズスチーム、ダルジュ・アレクチーム

 B:英雄・ダルジュチーム、アレク・ハンズスチーム

  C:英雄・アレクチーム、ダルジュ・ハンズスチーム

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