無敵戦隊シャイニンジャー

Mission1: 「シャイニンジャー見参!」

 2005年、地球は最大の危機に瀕していた。
 宇宙からの侵略者、謎の生命体ネオロイザーの攻撃に直面していたのだ。
 彼らの正体は不明。姿形は地球上の生命体を擬態している。獣類、魚類、植物はもちろん、果ては人間を模している者もいた。姿は似ていても、その凶暴性はすさまじく、特に人類に対する敵意は比類なきものがあった。
 先行する文明を持つ侵略者に対し、地球側が用意した対抗策が、ネオロイザーの最先端技術を取り込んだ対ネオロイザースーツを纏う戦士の開発であった。
 その名をシャイニンジャー。
 ただし、シャイニンジャースーツには地球文明では及ばぬ要素が多く含まれていたため、スーツ先行で作られた。しかも量産が効かずにスーツは3着のみ。
 先に衣を作り、それに当てはまる人間を後から選出するという寸法である。

 結果、幸か不幸か…シャイニングスーツを纏うのは、3人が3人とも民間人だった。

「それはもう聞きました」
 現代科学の粋を集結したシャイニンジャー秘密基地で、ブルーこと斉藤貢(サイトウ・ミツグ・27歳)が机を叩く音が響いた。叩かれた机は、基地の壁面に合わせて滑らかなミルク白色をしている。持ち主であるシャイニンジャー秘密基地長官・野村慎二(52歳)は渋い顔をした。父親ほども年が離れた長官を無遠慮に睨み据えるブルーの顔は、厳しさを隠そうとはしなかった。きっちり着込まれたスーツ、端正な顔に、どこかお坊ちゃんさを感じさせる、色素の薄い中分けの髪。そこから見つめる瞳は冷徹と言っていい。
「私は、いつ職務に戻れるのかと聞いているんです」
 寝具を中心とした巨大寝具メーカー斎藤寝具の次期社長にして現・副社長であるブルーは声を荒げた。「私が1日音信不通になるだけで、どれだけの被害が出ると思っているんです?」
 野村長官の口からため息が漏れる。
 こちらだって選べるものなら選びたい。
 しかし、そうも言っていられない事情があるのだ。
「…斎藤寝具の社長から許可はいただいている。損失に関しては、こちらの予算で補填しよう」
「ちっ、あのクソ親父が」
 およそスーツ姿のエリートに似つかわしくない台詞をブルーが吐き捨てた時、間延びした声がフロアに響いた。
「ま、いんじゃねーの?そうカリカリしなくってもさぁ」
 かりんとうを頬張るその口が緩んでいる。座っていても背の高さが知れた。メインルームに持ち込まれた洋風のソファにはひどく不似合いな黒の作務衣に、今時どこで入手するのか藁で編まれた草履を履いている。首から下げた二連の木製の数珠が、かろうじて彼の職業を示している。それがなければ、その若さと茶髪、軽薄そうな笑顔でとても坊主だとは思えない。
「ブラック」
 ブルーのあきらめたような声に、シャイニングブラックこと龍堂悔(リュウドウ・カイ・26歳)は可可と笑い声を上げた。
「選ばれちまったもんはしょうがねーだろ、あきらめろよ」
「しかし」と抗議しかけたブルーをあしらうように、「見ろよ」とメインルームの中央に置かれているモニターを顎で指す。
 メインルームの中央に設置されたモニターは全部で7つ。メインモニターの両脇に三分割されたモニターが各地の様子を映し出していた。その下で、黒のワンピースと白のジャケットという揃いのユニフォームを着たオペレーター達が慌しくコンピューターと格闘している。各地にランダムに現れるネオロイザーをカメラで補足するのが彼女たちの役割だった。
 サイの形を模したネオロイザーが市民を襲っているのが見える。二本足で立ち、中世ヨーロッパを思わせる甲冑を纏ったその姿はどこまでも異質なものだった。開いた口からはレーザービームが走り、従える戦闘兵の黒い肌には幾何学模様に似たペイントが施されている。マネキンのような肌の照りから判断するに、戦闘兵はロボットのようだ。破壊される街並みに、人々が逃げ惑う。
『皆殺しだ!』
 ネオロイザーが戦闘兵に命じた瞬間、ビルの谷間から逆光を受けた人のシルエットが現れた。
「そこまでだ!!」

「我等がリーダーのお出ましだ」
 ブラックはにやりと微笑みながら、湯呑みに口をつけた。


 スーツの適性に一番あっているのが民間人3人だったことについて、対ネオロイザー地球連合本部の面々は深刻さを隠そうとはしなかった。地球文明において左右できない要素であるため、不可避なことであるというのは納得ずくの開発だったが、それでもやはり結果を見ると閉口せざるを得なかった。
 戦闘訓練を施して、急ごしらえで一人前の戦士にしなければならない。
 それもさることながら、選出された一人のプロフィールを見た野村長官は息を呑んだ。

 一人は未成年。しかも、浪人中のフリーターだったのである。

「…彼に、地球の未来を託すんですか?」
 偏見は良くない。それはわかっている。しかし…彼の適性スーツはレッドである。ひいてはシャイニンジャーのリーダーと言うことになる。レッドの経歴をざっと見た野村長官は不安を隠しきれなかった。
「そうだ、他に道はない」
 突き放すように上官に告げられ、レッドを迎えに行った時の様子を野村長官はまだ覚えていた。
 まだ少年らしさを残したレッド…青葉太陽(アオバ・タイヨウ・19歳)は、風が吹けば飛びそうなぼろぼろのアパートに住んでいた。老朽化が進みすぎて、雨が降っていないのにどこからか水が漏れている。遠からずここは崩れるだろうと野村長官は判断した。
 呼び鈴もなく、ドアをノックすると間延びした返事が返って来た。出てきたのは、ラフな髪型によれよれのTシャツ、同じく使い古したジーンズを着たレッドだった。アルバイト続きで寝不足らしい彼は、用件を伝えると、控えめにこう答えた。
『…オレで力になれるのなら』
 ちなみにブルーは『お断りです』、ブラックは『あ、いいっスよ』という不安をさらに増加させるよう返答だったため、レッドの真摯さの伺える返答に心が安堵したのを覚えている。
 大方の予想を裏切って、彼は戦闘訓練にも何一つ文句は言わなかった。それどころか、他の誰よりも、よく働いたのである。
 経歴だけで判断しようとした自分の愚かさを噛み締めると共に、一途の光を見た気がして、思い出すたびに野村長官は目を潤ませた。
 メインモニターの中で大見得を切る青年。彼になら未来を託せるだろう。
 
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