無敵戦隊シャイニンジャー

「お前達の好きにはさせない!」
 叫んだレッドが、右拳を高く掲げた。その手首に巻いてあるブレスレッド、いかつい腕時計を思わせるメタリックな材質で出来たそれこそが、シャイニングスーツを分子単位で収納したシャイニングブレスである。キーワードを叫ぶことにより、解き放たれたシャイニングスーツが対象者の体を包む仕様になっている。その速さは、30万km/秒。正に光の如し。
「どうしてもう少し放っておかないんですか」
 ブルーがいらついた様子で爪を噛んだ。モニターに映る斎藤寝具の本社ビルを睨みすえる。
「今日、社長は社にいるというのに…!せめてネオロイザーがヤツをやってからにして下さいよ」
「まあ、そうカリカリすんなよ」
 不服そうなブルーに笑いながらブラックがかりんとうを差し出した。ブルーが渋々といった風情でそれを受け取る。
「私にもお茶を。そうですね、ダージリンがいい」
「はい」オペレーターの一人が席を立った。
 ブラックの対面に座ったブルーが、つまらなそうに画面を見た。
「…お前ら、何をしている?」
「モニター見てますが?」
 野村長官の唖然とした声に、ブラックが飄々と答えた。
「いや…?ネオロイザーが出現して、レッドが戦ってるわけだが…?」
「私達はそれを見ているわけですが。ああ、ありがとう」
 ブルー専用のティーカップにオペレーターが紅茶を注いで来た。受け取ったブルーが礼を言う。ブラックがまた茶を啜りながら、「大丈夫っすよ」と請け負った。
「レッドが死んだら、7割引で墓作ってやるって約束してるんで」
「な!?」
「あ、いいですね、それ。私が死んだ時は、遺産なんぞ残らんよう派手にお願いしますよ」
 ブルーの声を聞きながら、野村長官は額を押さえた。頭痛がする、気のせいか。
 じわじわとこみ上げる怒りを拳に集めて、野村長官が怒鳴ろうとした瞬間、オペレーターが叫ぶ声がメインルームに響き渡った。

「衛星カメラ破損、モニター修復中、レッドの反応が消えました!」

 砂嵐になったモニターを見たブラックとブルーが立ち上がる。
「死んだんですか?」
 ブルーがオペレーターに歩み寄りながら尋ねた。
「いいえ。直前にネオロイザーからレーザー状の攻撃を受けていましたので、恐らくはブレスを破損したものと思われます」
「ブレスを破損…となると」
 ブラックが天井を見ながら呟いた。
「ただの人です。変身も解ける」
 全く、とブルーが嘆息した。
「スペアはありますか?」
「は、はい。ここに」
 オペレーターの一人がレッドのスペアをブルーに手渡す。
「ありがとう」
「お、行くのか」
「そうせざるを得ないでしょう」
「そうだな」
 んー、とブラックが伸びをした。動くたびに首から下げた数珠が音を立てる。立ち上がると、その背の高さがよくわかった。彼の身長は190センチ。シャイニンジャーの中では一番高い。次いでブルー、そしてレッドの順だ。
「じゃ、行きますか」
 人懐っこい笑みを見せてブラックが微笑む。渋々といった風情のブルーとは対照的な表情だった。



 レッドこと青葉太陽は、肩で息をしていた。
 穿いているジーンズとTシャツ、結構気に入っていたのになと嘆いてみる。服はすすだらけで、あちこち擦り切れていた。
 破壊されたビルの瓦礫に隠れて、深呼吸を繰り返す。粉塵が舞ったせいか、空気が濁っている気がした。
 変身をしたところまでは良かった。
 シャイニンジャーには、一人でもネオロイザーを倒せるだけの技量がある。
 逃げ遅れた男の子がそばにいるのに気づいて、手を伸ばした。瞬間走った光線。ブレスが砕け、変身が解けると同時に、レッドは男の子を抱きしめ瓦礫の影へと身を伏せた。
「おかあさん…!」
 腕の中で相変わらず男の子が泣きじゃくっている。
「大丈夫だよ、もうすぐ帰れるからね。がんばろう」
 男の子の頭を撫でてやる。7歳くらいだろうか。抱いて逃げるには重すぎた。
 撫でている自分の手首に、あるはずのブレスがない。妙に軽いとレッドは思った。
 どうしようか。
 出来ることは限られている。
 一度身をそらすようにネオロイザーの様子を見た。
 幸いまだ見当違いの方向を探しているようだ。けれどじわじわと距離が縮まっている。時間は無い。レッドは男の子の顔を覗き込んだ。
「お母さんのところに帰りたい?」
 レッドの声に、男の子はこくこくと頷いた。
「じゃあ、オレと約束だ。もう泣かない」
 男の子の目が見る見る不安げな光を宿す。一体なにをする気なのか図りかねているようだ。
「オレがこれからあいつらの気を引くから、様子を見て逃げるんだ。ほら、地下鉄の入り口が見えるだろう?あそこに向かって走れ」
 レッドが指差す先、瓦礫に埋もれそうな地下鉄の入り口があった。距離にして10メートル。子供でも走れば逃げ切れるだろう。中から不安げに母親らしき女性が顔を出しているのを見つけた男の子の表情が和らいだ。
「…おかあさん…」
 よし、とレッドが泣き止んだ男の子の頭を撫でた。
「出来るね?」
「うん!」
 袖で涙の余韻を拭いながら男の子は頷いた。
「いい子だ」
 母親に向かって手を振った男の子がふと気づいたように顔を上げた。
「お兄ちゃんは…?」
 レッドは答えずに微笑んだ。
「行くぞ!」
 言うが早いか駆け出す。
『そこか!』
 突如として現れたレッドに、ネオロイザーの開いた口から光線が放たれる。白色をした光線が、レッドの足元にある瓦礫を打ち抜いた。足元を掬われる形でレッドがよろめく。
 続く光線は、正確にレッドの頭を狙っていた。
 バランスが悪い。よけられない。
 観念したレッドは、視界の端で男の子が母親の元に辿りついたのを確認した。
 光に飲まれるその瞬間まで、レッドの口元は微笑んでいた。
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