無敵戦隊シャイニンジャー

「うわ、なになに? 卓球大会?」
 風呂から上がった女性陣は、光速ラリーを続ける四人に目を丸くした。
「きゃあ、レッドさん頑張ってください!」
 美沙が生乾きの髪のまま、レッドとブラックの台の傍に駆け寄る。雫と共に、石鹸の香りが漂った。
「へぇ、やるやんけ」
 宮田がブルーと長官を見て、勝気な笑みを浮かべる。
「ギンザ、面白そうですわ」
 やはり浴衣に着替えたリンゼが、ぱちんと手を叩いた。
「しかし、リンゼ様……」
 危険では、とギンザが不安げな顔をする。浴衣がどこかちぐはぐな印象だ。
「あら」
 その様子をロビーから眺めていたステファンが優雅に微笑んだ。
「本当に面白味のない男ね?」
「なんだと?」
 ギンザがステファンを無遠慮に睨みつける。ステファンは受け流すことなく、正面からギンザを見返した。
「彼女がやりたいって言ってることくらい、叶えて上げなさいな。心配なら、ダブルスでいかが?」
「望むところだ!」
「あらあら」
 そういう時の顔はいいのね、と言いながら、ステファンは手を伸ばした。傍らにいたナナをくるりと抱き寄せる。
「じゃあ、ナナちゃん、見せつけてやりましょうか」
「ええっ!?」
「ステファン! お前なにやってんだよ!」
 レッドの球を返しながらブラックが抗議する。ステファンは片手であしらった。
「いいじゃないの、たまには」
 そういうわけでよろしく、とナナにラケットを手渡す。
「は、はい……」
 がんばります、とナナは小さく答えた。
「リンゼ様、私の後ろに」
 ギンザがラケットを構えた。
「手加減はせぬ!」
 フルスイングでギンザが球を打ちつける。途端に豪快な破裂音が響き渡った。
 ネオロイザーの力で思い切り叩かれたピンポン玉は、ラケットに貼りついたまま潰れていた。


 突発的に行われた卓球大会は、最終的に基地のフルメンバーまでもが参加する一大イベントと化した。
 オペレーター達がホワイトボードにトーナメント表を書き、勝敗を記していく。
「貴様を打ちのめしてやる!」
 とレッドにラケットを突きつけた芹沢だったが、彼は初戦敗退だった。
 シャイニンジャー三人と長官、ギンザ、ステファンらが順調に勝ち進み、さて決勝という段階で長官がぎっくり腰を起こし、あえなく解散となったのだ。
「いたたたたたたた」
 用意された自室でふとんに横になりながら、長官は呻いていた。
「年を考えなさいよ」
 ステファンが長官の腰に湿布を貼る。ひんやりとした感触に、長官がほっと息をもらした。
「面目ない」
「全く。仕方のない人ね」
 嘆息したステファンが立ち上がる。窓を開けると、山の冷気が入り込んできた。
「ほら、月が綺麗よ」
「ああ」
 長官が夜空を見上げる。澄んだ空気の中で星は冴え、月の光が染み渡る。
「たまにはこういうのもいいもんだな」
「そうね」
 窓際でステファンが微笑む。その笑みはどこか艶やかな印象を持っていた。
 この時、外を散歩していたオペレーターは、長官の部屋からステファン医師が月を愛でているのを目撃した。浴衣がはだけていたとあらぬ尾ひれをつけられ、噂が駆け巡ったとは長官が知る由もない。


 三泊四日の慰安旅行は、それなりに充実した時間を各自に与えたようだった。温泉に入り浸る者、山を徘徊する者、里で伝統工芸品を作ってみる者など。
「あー、もうフィルムない! 買ってこなきゃ」
 使い捨てカメラの残りフィルムを見た美沙が悲鳴を上げた。
「美沙ちゃん、それ、何個目?」
 レッドが呆れたように言う。最終日であるせいか、すでに荷物をまとめ、ロビーのソファに腰掛けている。
「だって、たくさん撮りたかったんですもん」
「もう最終日だし、買わなくても大丈夫じゃないかな」
 美沙が不満げに唇を尖らせた。つい、とレッドの顔を覗き込む。
「レッドさん」
「ん?」
 真顔になった美沙を、レッドが見上げた。
「楽しかったですか?」
 美沙は思い出していた。初日の出発時、レッドのアパートに押しかけた時のレッドの言葉。
 だから写真をたくさん撮りたいと思ったのだけど。
 美沙の気持ちを知ってか知らずか、レッドはにこりと微笑んだ。
「うん、すごく」
「それは良かったです」
 スーツに身を包んだブルーが淡々と告げた。
「最終日はしっかり皆さんに働いてもらいますよ」
「え、働く……?」
 レッドが意外そうな顔をした。
「近くに斎藤寝具の工場があります。保養所を貸した分、きっちりとね」
 ブルーが冷徹に微笑む。ロビーの温度が急速に下がっていった。

 後日、元・シャイニンジャー基地メンバーの間にまことしやかに囁かれた噂がある。全員参加であったはずの工場での労働を宮田だけが免れたというのだ。
「あたしが働いたほうが早いんちゃう?」
 人より余分にノルマを課されたブラックを見ながら、宮田がブルーに尋ねた。ブルーがちらりと宮田の手を見やる。
「柔らかいんでしょう? それ」と言ったかどうかまでは、定かではない。


【無敵戦隊シャイニンジャー:湯煙旅情だ! シャイニンジャー・完】 
2006.10.17-19

■この話は、「ことば日和」2周年記念で皆様のリクエストを元に作成されました。リクエストの内容は次ページにてご確認いただけます。
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