無敵戦隊シャイニンジャー

 結局、ブラックがギンザ達を連れ戻してくる羽目になった。
「もみじ狩り、というのはかようなものではないのか」
 ギンザからの指摘を受け、ブルーが軽くこめかみを押さえる。
「困るんですけどね、ああいうの」
 旅館の外周にある遊歩道をふらふらと歩きながら、ブルーが呟いた。浴衣がどこか浮いて見えるのは、都会育ちなせいかもしれない。
「そうそう神経質になるなよ。折角の旅行じゃねーか。紅葉も綺麗だしよ」
 ブラックが目を細めた。こちらはぴたりと浴衣が似合っている。足元には、紅葉が敷き詰められていた。歩くたびにかさりと音を立てる。
「危うく丸裸になるところでしたよ」
「裸と言えば」
 ブラックがに好色な笑いを漏らした。ひそりとブルーに囁く。
「あるんだろ? 覗きスポット」
「ありませんよ。なに考えて……」
「わあ、おんせーん!」
 嫌悪感を滲ませてブルーがブラックを睨んだ時、二人の頭上から美沙の声がした。ブラックとブルーが顔を見合わせる。
 見上げるほどに続く石垣、竹で作られた柵の向こうが女湯なのだ。のぼる湯気にすら色気があるようだった。
 どちらからともなく、二人の足が止まっていた。
「おおっ、広いなぁ」
「そ、そうですね……」
 宮田の快活な声に、ナナが続く。
 先に正気に返ったのは、ブルーだった。咳払いをして、顔をそらす。
「行きましょう。悪趣味ですよ、こんな……」
「あっ、宮田さんすごーい! おっきーい!」
「そやろ? 自慢やもん、これ」
 ブルーが口を開いたまま、言葉を失う。
「ほー、悪趣味ねぇ」
 からかうような視線を寄越したブラックは、しかし、
「あ、あの、触らせてもらっても……いいですか……?」
 ナナの声に真顔に戻った。
 奇妙な沈黙の時間が流れる。
 二人の全神経は耳に集中していた。
「すごく……やわらかい、です」
「きゃー、ぷにぷに! これ、ブルーさんも触ったことあるんですかぁ?」
「な!」
 美沙の言葉に大声を上げようとしたブルーの口を、慌ててブラックが塞ぐ。弾みでブルーが石垣に背を打ちつけた。
「待て待て待てって! こんなとこで声上げてどうすんだよ!」
 小声で諫めても、ブルーは押さえられた手をほどこうとする。抗議のためか、瞳には涙が浮かんでいた。顔が真っ赤だ。
「いいなぁ、宮田さんのハサミー!」
 心底うらやましそうに告げる美沙に、二人の目が点になる。
 小鳥がその美声を響かせながら、羽ばたいていった。


「あの遊歩道は女性専用にすべきですね。男性には遭難ハイキングコースでも用意しますよ」
 努めて冷静を保ちつつ、ブルーが旅館の扉に手をかける。妙な汗をかいてしまった。もう一度湯につかったほうがいいかもしれない。
「俺は面白いもん見れたからいーけど?」
 ブラックが可可と笑う。と、それにあわせたように、フロア内に独特の硬音が響いていた。卓球のリズムだ。
「おや」
 ブルーが意外そうな顔をする。
 フロアにいくつか設置された卓球台のうちひとつで、レッドが卓球をしていたのだ。対戦相手は、長官。
「意外だな」
 ブラックが口笛を吹く。同時に長官のスマッシュが決まる。
「うわー、負け」
 レッドが息をきらしながら座り込んだ。
「まだまだ若い者には負けんよ」
 長官が汗を滲ませながら浴衣の襟を正す。
「面白そうですね」
「おし、俺とやろうぜ、レッド」
 ブラックが卓球台に片手をつく。レッドは「いいよ」と立ち上がった。
「お相手願いますか?」
 ブルーが長官に告げる。
「いいのか? ワシは卓球台の慎ちゃんと呼ばれた男だぞ」
「構いませんよ」
 ブルーが微笑する。
「私も伊達に、卓球台のプリンスと呼ばれたわけではありません」
 ラケットを持ったブルーの姿勢を見て、長官は認識を改めた。
「できるな……!」
「退屈はさせません」
 ブルーがサーブを打つ。球は光となって、卓球台を駆け抜けた。
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