DTH

第11話 「第・3・世・代」

 この間、英雄と決めたことがある。
 曰く、アレクを怒らせるのはやめよう。
「普段大人しい人間がああもキレるのか…」
 英雄はコーヒーを飲みながら淡々と感想を漏らした。
 アレクはライフルでの遠距離サポートが主な役目で、最前線に出ることはほとんど無かったらしい。それがあの場所にバイクで突っ込んできたもんだから、英雄にとってはカルチャーショックに近いものがあったようだ。まあ、オレも驚いたんだけど。でもそれをいったら、初めにオレを連れ去ったときには相当思いつめてたってことなんだろう。
「ダルジュは責を問われるだろうな」
 とも英雄は言った。
 オレは正直あんなヤツどうなったっていい。
「セレンは?」
 ふと思いついて英雄に聞くと「セレンもだ」と答えた。
「オレ達を逃がしてくれたのに」
 呟いたオレの言葉に英雄がむせた。コーヒーがごぼりと鈍い音をたてる。
「君は…ああ、そうか。出逢ってから、いいほうにしかダイスが転がっていないんだな。勘違いしないように言っておくが、セレンは結局セレンだ。過信はよくない」
「?なに?言ってる意味がわかんない」
 セレンはそりゃセレンだろう。
 英雄はなんと説明したものかと具体例をあげかけて、思い出すにも苦い顔をした。
「組織の中では別に年功序列なんてものはないけど、入ってきた時期によってグループが大別されてた。僕やダルジュ、アレクは第2世代、セカンドだ。セレンはその先輩、第1世代、ファーストだ。ファーストはもうセレン以外生き残っていない。体制が整いきってなくて、訓練やミッションが過酷だったせいもあるけど、そんなことは些細なことだ。理由の8割は」
 英雄はそこでごくりと唾を飲んだ。
「セレンのせいだと言われてる」
 セレンの悪戯好きは以前に身をもって知ってたけど、英雄が言うには恐ろしいことに実戦でもそれが発揮されるのだと言う。
「考えてもごらん、クレバス。ドンパチしている最中で、銃を構える。引き金を引いて、出てくるのは弾丸でなく下手な造花だ。それだけで心臓が止まって死ねるね」
「そんなことあったの?」
 英雄は死ぬほど嫌そうに「あった」と言った。
「仲間がそれで死んだと抗議に行っても返り討ちだ。ああ、徒党を組んで闇討ちをしかけた奴等もいたが帰ってこなかったな。やっかいなことに強い。それで幹部連中も見てみぬふりだ」
 言いながらコーヒーをすすって、英雄は顔をしかめた。
「なんだか苦くないか?」
 思い出のせいだろ、というと英雄は渋い顔をして砂糖をカップに突っ込んだ。

 その話を聞いたセレンは愉快そうに微笑んだ。
「あの子がそんなことを?」
「ホントなの?」
「まあね。…期待にこたえようか?」
 慌てて首を振る。セレンがふと思いついたように言った。
「ダルジュの前で糸を使ったそうだね。こないだあの子に怒られた。まあかわいいもんだったが」
 怒ったダルジュがかわいいなんて、オレには到底思えない。
「…まずかった?」
「あれは君にあげたものだ。好きにするといい」
 そう言ってセレンは優雅に紅茶をすすった。
 木造の造りのかわいいティーショップ。木目のテーブルに椅子、壁に緑の観葉植物が映えて、マージを連れてきたら喜びそうな店だと思った。店内にはやっぱり女性客が多い。
 …子供、つまりオレはなんとなく場違いな気がするんだけど。
 おずおずとミルクティーを飲む。ほんわりとあたたかい。
「…おいしい」
 思わず感想を漏らすとセレンが嬉しそうな顔をした。
「だろう?砂糖の代わりにハチミツを使っているそうだよ。お腹が空いているようならケーキでも食べるといい」
 夕食が近いから、と遠慮するとセレンは少しがっかりしたようだった。遊びの余裕も無い育て方をしているなら感心しないね、と独り言を呟く。
「セレンは、…あそこから出る気はないの?」
 我ながら核心をつく質問だ。
 でもこの雰囲気なら言える気がした。
「私はね」
 セレンが言った。
「探し物をしているんだよ。…このくらい、だったかな」
 そういいながら首をかしげつつオレの肩に触れた。オレを通して別のなにかを見るように、唯一開いた片目を細める。しばらくそうしてから、見つけ切れなかったのか瞳を閉じた。
「だめだな、やっぱりよくわからない」
 首を静かに振る。
 今のが答えなんだろうか?
 小首をかしげて目を伏せるセレンがあんまり寂しそうだったから、オレはそれ以上聞けなかった。

 帰り際、セレンが思い出したように言った。
「さっきの話、世代のことだが面白いニュースがひとつある。もうじき第3世代のお披露目らしい。馬鹿共の量産でなければいいんだが」
 その瞳はすでになにかを企んでいて、悪戯に微笑んだ。

 セレンと別れて角を曲がった先で声をかけられた。
「ちょっと道を聞きたいんだけどぉ」
 オレより少し背が高い。たぶんオレよりひとつかふたつ年上だろう。…女?か男かわからない。どちらともとれる体躯をしてる。陽光を受けて天使の輪を作る金髪を前髪のサイドだけ長く肩まで伸ばして、他はショートにして後ろにはねさせながら流していた。ちょっと個性的な髪型だと思う。
「わかる範囲でなら」
 言いながら差し出されたメモを見る。書かれている住所は…ウチ、だ。
 なんだか物凄く嫌な予感がした。
「あいにくだけどわからない」
 そう言って踵を返そうとする。
「ウッソだぁ、自分チわからないわけないじゃん」
 からかうようにくすくす笑うソイツが持っているのが、なにかのスプレーだと思ったところまでは覚えてる。



 誰かのすすり泣く声で目が覚めた。
 体中が痛い。床がむきだしのコンクリートだからか。筋肉がぎこちなく硬直してる。
 真っ暗ななにもないコンクリートの部屋だった。音もまるで聞こえないし、光もない。
「…誰か、いるの?」
 泣き声がオレに問いかけた。
 男とも女ともつかない、子供の声。
「いるよ。ここに」
 なんでだろう。頭がひどく重い。ふらふらして吐きそうだ。
「どこだよ、ここは」
「わかんない。僕も、気づいたらここにいて…」
 声に聞き覚えがある気がする。ぼんやりとそう思うけど、だめだ、思い出せない。
「僕、ガイナス。君は?」
 くすんと鼻をすすりながらガイナスが聞いた。
「オレ?…オレは…」
 ―――誰だっけ…?
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