DTH
英雄はアレクが帰った後にさんざんなんだあれはと叫んで、それでも夜が来ると、オレを呼んだ。
台所を片付けて、居間の電気を消して、戸締りとか全部済ませてから英雄の部屋に行く。
「なに?」
英雄はベッドに体を起こして死ぬほど憮然とした顔で、目をそらしながら、寝ようかと言った。
「は?」
部屋の電気はとっくに消されてたけど、廊下の明かりがついていたから見えてしまった。
英雄が、耳まで赤い。
「だから、一緒に寝ようか、って言ったんだ」
「なんで?」
オレの問いに英雄は口の中でなにかいいかけて、多分アレクが言うからしょうがないじゃないかとかそんなんだったように思うけど、「いいから」とだけ言った。
なんだか改めてそんなこと言われるとすごく照れ臭いんだけど。
「今晩だけね」
と英雄は言って毛布を持ち上げた。
「今晩だけ?」
「寝ぼけて君を殺したらシャレにならない」
英雄が真顔で答えた。
それは本当にシャレにならない。
英雄のベッドの端に寝転ぶ。毛布の中は英雄の熱のせいかすごく暖かかった。
そばに英雄がいるのがわかる。伝わる体温でそれがわかるのに、体がぎちぎちになってなんだか動けない。
「そんな端じゃ落ちるぞ。こっちにおいで」
英雄が言って手を伸ばした。
オレの頭くらいの高さ。
「なに?」
「腕枕。するもんなんだろう?多分」
英雄の言葉に、かあっと顔中に血液が集まって、心臓がばくんと音をたてた。
「い、いいよ。お前ケガしてるし」
慌てて顔を伏せる。どうせ暗いから英雄にだって見えないはずなのに。
「いいから、僕がしたいんだ」
おそるおそる頭を乗せた。英雄の腕。あたたかい。
「力を抜いたほうがいい。首がつるぞ」
「だって、きっと、重い」
「いいから」
英雄が頭を撫でた。知るもんかと目をつぶって力を抜く。英雄の腕がオレの頭を受け止めた。
「ホントに力抜いたのか?随分軽いな」
「抜いたさ!」
ムキになって言うと、英雄の顔が物凄く近くにあった。
英雄がオレの瞳を覗き込むようにして微笑んだ。
手を伸ばすと英雄の胸に触れる。服を通して包帯の感触がした。
「…痛い?」
「今は、別に」
「熱い。熱があるんだ」
多分ね、と英雄は言った。
「アレクの傷を見たよ」
オレの言葉に英雄はしばらく答えなかった。
「どう思った?家畜の烙印みたいだろ」
「そんなことは…!」
抗議をしかけて、英雄の胸を思いっきり指で引っかいた。英雄が痛みに呻く。
「ごめん!」
「いや、大丈夫、だ」
英雄が涙目でフォローする。暗闇にも瞳が潤んでるのがわかった。
いつもこうだ。
オレが何をしても、英雄は必ず許す。どうしてだろう。
「英雄の、傷も見たい」
英雄の胸に触れながら小さく呟く。
呟いた言葉は英雄に届かなかったみたいだ。
「クレバス?」
不思議そうに英雄がオレを見返す。瞳の中に映るオレはなんでこんなに子供なんだろう。
オレは子供で、英雄の助けになんかなれないけど。
それでも。
いつか力になりたいんだとそう思った。
それからオレ達は結局夜更けまで寝られなかった。
他人がそばに居る緊張感にどちらも慣れなくて、「眠れないね」「うん」という会話を交わしては、人がそばにいるんだという自覚を促すという不毛な状態を繰り返した。
多分、オレが先に寝たんだと思う。次の日、オレが目を覚ましたときには、英雄はオレを抱きかかえるような格好でマヌケによだれをたらして寝ていた。
睫の一本一本まで数えられるような距離で、英雄を見た。
今までこんなにゆっくりと英雄を見たことはなかった気がする。
平和そうな英雄の寝顔。馬鹿かマヌケかと思うくらいに油断しきってって、ちっともかっこよくなんかないのに。
なんだか涙が出てくるのはどうしてなんだろう。
第12話 END
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