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第17話 「そして終わり無き夜が始まる」

 応急処置を施されたダルジュは、ハンズスの実家の病院に運ばれた。
「今、親父が手術してる。傷を見たが弾は貫通してた。多少のリハビリは必要になるが動くだろう」
 待合室でハンズスがそう説明する。
「そうか、ありがとう」
 英雄が礼を述べた。
「クレバスは?大丈夫か?」
 ハンズスがオレを気遣った。
 言われて頭に触る。なんかコブが出来てるみたいだ。
「コブが出来てる…」
「そりゃ冷やしたほうがいい」
 英雄の馬鹿が移るぞと言って、ハンズスが氷をどこからか調達してきた。
「しかし、ハンズスは意地が悪いんだな。初めに取っ組みあった時に言ってくれればいいのに、別れ際にようやく正気だと言うなんて」
 あーあ、知らなかったと英雄が大袈裟に嘆く。
 ほほう、とハンズスは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「お前は散々俺を騙してたじゃないか。ちょっとはいい薬になったろうが」
 英雄が痛いところを突かれたという顔をした。
「ハンズスは平気なの?」
 オレが聞くと、ハンズスは手術室を振り返って変な顔をした。
「あいつが俺にブドウ糖だと言って打ったのが本当なら、なんともないな」
「大丈夫さ」
 英雄が請け負った。

『恩人、なんだ』

 いつかダルジュを評した英雄の言葉を、なぜだか思い出した。


 ダルジュの一報を聞いたセレンは、慌てるわけでも駆けつけるわけでもなく、実に淡々とした表情で現れた。用意された個室に寝かされたダルジュを見て「この子がケガをね」と呟く。それ以上の感想はないようだ。いまいちダルジュとの関係性がつかめない。
「本当は山のように言いたいことがあるんだが、とりあえず」
 英雄がオレを抱き寄せながらセレンに言った。
「二度とクレバスにちょっかいを出さないで貰おう」
 セレンがなんの話だと言わんばかりの表情をした。
 鋼糸のことだとピンと来る。
 あの後英雄は特になにも言わなかったけど、やっぱり―――気にしてたんだ。
 セレンも察したのか、柔らかく微笑んだ。
「それはお前が決めることじゃない」
 セレンの一言で室内が一気に緊張した。
 ぴり、と空気が張り詰める。
 英雄がオレを抱く腕に力を入れながらセレンを睨んだ。
「あれはどうした?」
 セレンは英雄に構いもせずにオレに話しかけた。
「糸なら…アレクに預けた」
 オレの返事を聞いた英雄の腕がゆるむ。
 そっか、言ってなかった。意外そうな英雄の顔を見て、しまったと思った。
「武器を持つのには理由がいる、って言われて。それを見つけるまではダメだって」
「あいつらしい」
 セレンが鼻で笑った。
 そのまま蔑むような目を英雄に向ける。
「お前より、よほどその子のほうが建設的だな?」
 セレンの視線を受けて、英雄の顔がゆがんだ。
「ごめ…」
「謝らなくていい」
 ちっとも良くなさそうな顔で、英雄は言った。
「それにしても」
 セレンが病室を見渡した。
「なんだってここなんだ?闇医者のひとりやふたり、お前だって知ってるだろう?」
「ここだから意味があるんだ」
 英雄が言った。
 セレンがふうんと意味ありげに頷く。
「友人、だったか。お前の」
 ハンズスのことだ。
「どちらにしろ、目を覚ませば連れて行く。まあ私が連れ出さなくとも、この子は気づいたら勝手に出て行くだろうがな」
 ここは明るすぎていけないとセレンは片目を細めて言った。
 オレには言葉の意味がわからない。
 英雄に聞こうとして、顔を見たオレはなにも言えなくなってしまった。
 静かに瞳を伏せて、わずかに唇を噛み締めるその様は、叱られた子供のようにも見えた。

 帰ってからものすごく遅い夕食の支度に取り掛かった。
 英雄はデリバリーでいいじゃないかと言ったけど、そんなのもうとっくに閉まってる。
「スープでいいよ。食欲がない」
 オレもあんまり食べる気がしなかったから、カップにインスタントのコーンスープを注いで居間のソファに座る。それでようやく人心地ついた気がした。気持ちの浮き沈みが激しすぎてなんだか心臓に悪い。
 室内の照明のせいか、英雄の顔色が悪くみえる。
「だめだ」
 英雄が半分も飲まずにカップを置いた。そのままごろりとソファに横になる。
「考えることが多すぎてぐるぐるする」
 うーんと唸りながら顔を覆う仕草に思わず吹き出した。
「オレも。結構心臓に悪いよな」
 英雄が頭を抱えた手の隙間からちらとオレを覗いて、手招きした。呼ばれるままに近寄って、抱え込まれる。
「英雄!」
「クレバスはいっつもあったかいなあ。子供だからか。体温が高いんだな」
 面白そうに頬をすりよせられた。
「お前、手が冷た…!」
 英雄の手が恐ろしく冷たい。
「冷たいだろう?」
 にや、とした英雄にいやな予感がしたんだ。
 手がするりと移動して脇の下をくすぐられる。笑い転げるオレを英雄は満足そうに見ていた。
「あはは、苦しいって、あは、英雄…」
 ひーひー言っても英雄は手を止める気はないらしい。
 笑いすぎてホントに苦しくなってきた。
「いい加減にしろって!」
 むかついて蹴りあげた足が英雄の鳩尾に決まる。
 英雄がむせながらオレを解放した。小走りに英雄から離れる。
 うう、まだぞわぞわする。
「君のそういうところはどうかと思うよ」
 目尻にたまった涙をぬぐいながら英雄が不服そうに言った。
 知るかと言い捨てて、自分の部屋に行こうとしたとき、英雄が声をかけた。
「ごめん、話がしたいんだ。少しいいかい?」
 振り返ったとき、英雄はさっきまでと違ってひどく真剣な顔をしていて、だからオレは嫌だとは言えなかった。
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