ダルジュとはコンビを組んでいたんだ、と昔英雄から聞いたことはある。
けど、オレは想像もしたことがなかった。
オレと英雄の家の玄関から、ダルジュが入ってくる日が来るなんて。
「俺はここでいい」
ダルジュはそう言って玄関で立ち止まった。
「そんなこと言わずに入れよ。ダルジュ」
そういう英雄の神経がよくわからない。
ダルジュは黙って足を止めて、居心地の悪そうな顔をした。家、という雰囲気に場違いさを感じてるようにも思えた。
唖然とするオレと、憮然とするダルジュを見比べた英雄が、突然撃たれた腕を押さえてうずくまった。
「あいたたたたた」
「英雄!?」
「おい!」
オレとダルジュが駆け寄る。
と、英雄はけろりとした顔を上げた。「大丈夫」となんでもない声で言う。
「ざけんな」
ダルジュが英雄を蹴倒す。英雄は見事に転がっていった。
オレも同じ気持ちだったから止めもしなかった。
まんまと室内にはいってしまったダルジュはしぶしぶと、…本当にしぶしぶといった様子でソファに腰を下ろした。
英雄が対面に座る。
居間で、英雄とダルジュがむかいあって座ってる。妙な構図のような気がした。
オレは、ダルジュが店で英雄に手を出さないのは、そばにセレンがいるからだと思ってた。
けど、違うみたいだ。
さっき二人はセレンがいるからという理由で店には戻らずここに来たのだから。
「クレバスには話したことがあったね。ダルジュと僕は昔パートナーだったと」
英雄が言った。
昔聞いたことがあった気もする。
頷くと、満足そうに微笑んで先を続けた。
「今も、だ」
危うくいれていたコーヒーをこぼすところだった。がしゃんとカップが音を立てる。
「え…?」
今も…?
「だ、だって、ダルジュは…!」
ショッピングモールを爆破して、ハンズスを撃って、それになにより、あのビデオの。
オレの言いたいことを察した英雄は懐かしげに目を伏せた。
「いつだって加減してくれたよ。僕が死なないように」
どこか嬉しそうな笑顔だった。
ダルジュは死ぬほど面白くなさそうな顔で、居心地悪そうにソファに座ってた。
前に、ダルジュに言ったことがある。
ハント・ゲームのときだ。英雄のビデオを見て、許せなくて。
『どうしてこんなことをするんだ…!』
ダルジュは、こう答えた。
『俺がいるのがそういう場所だからさ』
その後触れられたくないとでも言うように本気で怒った。
建設途中で飽きられたようなビルで、ガイナスにけしかけられてオレを蹴落とした。
あの時も、一度下を見て…英雄が、そこにいるのを知ってて?
追撃がないよう、ガイナスを引き付けてた?
でも、ショッピングモールでもう動かなくなった子もいるよ…?
ぐるぐる回る回想。わけがわからなくなりそうだった。
「俺は別にてめぇのことなんざ考えちゃいねぇ」
ダルジュが毒づいた。
「嘘だよ。ハンズスを助けてくれたじゃないか」
英雄が笑う。
「言葉をはっきりと交わしたわけじゃない。それでも気持ちは通じてた。このままでも悪くないと思ったんだが…事情が変わった」
ダルジュが鋭い視線を英雄に定めた。三白眼が、自然、睨むように英雄を見つめる。
「あのガキか?」
シンヤのことだ。
「僕は自分達が逃げ切れればそれでいいと思ってた。…甘かったんだ」
英雄が独り言のように呟いた。コーヒーを飲んでふう、と軽いため息を吐く。
「あの子を取り戻す。そのためにも組織を潰す」
決意をこめた声で英雄が言った。
「僕につけ、ダルジュ」
「メリットは?」
「君を自由に」
「は、今さら」
ダルジュが鼻で笑う。
「選ぶのは自由だ。でも、あちら側につくのなら、僕は」
英雄がコーヒーカップを睨んだ。
カップに満たされたコーヒーが、室内の照明を受けて静かに揺らぐ。
「君を撃つ」
凛とした英雄の声は、瞬く間に空気に溶けていった。
ちくたくと時を刻む秒針の音がいやに響く。
ダルジュは英雄を見つめていた。英雄はカップを睨んだまま視線を上げようとはしない。
先に口を開いたのはダルジュだった。
「…銃をしまえ。話はそれからだ」
言われて初めて気づいた。英雄がいつのまにかテーブルの下で銃を握ってた。
「バレたか」
ぺろりと舌を出す英雄を見てダルジュが舌打ちした。
「拒否次第撃つ気かよ。ふざけやがって」
言い捨てて立ち上がる。
出て行こうとするダルジュに英雄が声をかけた。
「ダルジュ」
ダルジュが足を止める。
「信じてる」
「死ね」
ありったけの憎しみをこめたように吐き捨ててダルジュは出て行った。
その去る音を聞きながら、英雄は満足そうに微笑んでいた。
ダルジュが去っても座ろうとしないオレを見て、英雄が声をかけた。
「クレバス、すごく不思議そうな顔をしてるよ」
「そりゃそーだろ。…正直なにがなんだかさっぱりだ」
「そうかい?」
英雄は首をかしげて、コーヒーに口をつけた。
「僕はもう少し起きているから先に寝るといいよ」
そういえばいつもならとっくに寝てる時間だ。朝が近づいてる。
「じゃあ、そうする。おやすみ」
くるりと背を向けると英雄が声をかけた。
「ごめんね」
シンヤのことを言っているのだと気づくのにしばらくかかった。
「…お前のせいじゃねーだろ」
「僕のせいだ」
英雄はオレを振り返ろうとはしなかった。
ただ、その声はどこまでも自分を責めているように思えた。
第18話 END