DTH
第23話 「セレンの探し物」
セレンは探し物をしてるとオレに言った。
オレの肩に手を乗せて、『このくらいかな?』と。
だから、オレは、セレンが探してるのは小さな子供だと思っていた。
けど、まさか…
『ガイナスは、セレンの弟だ』
英雄の言葉に誰も何も言えなかった。
「あ…」
口を開いたのはダルジュだった。
「あのガキが!?」
英雄がダルジュに資料を投げた。一読したダルジュが「マジかよ」と呟く。
当事者のセレンは、相変わらず淡々とした様子で、わずかに眉をひそめて「覚えがないな」と言った。
「あんたも記憶をいじられてたってことだ」
英雄が断じた。
セレンはなにも言わずに考え込むようにして言葉を紡いだ。
「なにかを守ろうと思って…あの門をくぐったな。小さな手を引いてた。ひどくぼんやりとしてて思い出せない。小さな、ぬくもりだったか。それで…」
ちら、とダルジュを見る。
「そばにこれがいたから、そうかと思ったんだが、違ったのか。なんだ」
まるで人事みたいだ。
「な…!」
ダルジュが絶句した。
「ガイナスは、それ…知ってるの?」
英雄がオレを見た。
少し言いにくそうに、
「…ああ。第3世代のコンセプトは自発的な憎しみを育てて、コントロールすることにある。シンヤを見ればわかるだろう?だから、ガイナスは知ってる。多分、ずっと、セレンを見ながら育てられたはずだ。セレンが自分ではなくてダルジュばかりを構っている姿を見ながら、ね」
そう言って目を伏せた。
「じゃあ、なにか!?俺はあのクソガキに逆恨みされてたってのか!?」
「腕を撃たれたのも納得がいくだろう?敵意を持ってたわけだ」
「ざけんな!」
ダルジュが吼えた。
気持ちはわかる気がする。
英雄は、セレンに向き直った。
静かに資料に目を通していたセレンは、ゆっくりと書類を机に置いた。
「これの信憑性は?」
「僕の姿で判断してくれないかな」
英雄が肩をすくめた。どこに行ったのかは知らないけど、あちこち煤だらけで、ところどころに血がついてた。セレンが値踏みするように英雄を見た。ふうん、と曖昧に頷く。
「ガイナスにも、それは埋め込まれてる」
英雄が言った。
「僕はシンヤを助けたい。出来るなら、ガイナスも。セレン、力を貸してほしい」
英雄の言葉にセレンが顔を上げた。深く澄んだ緑の瞳が英雄を見つめる。
「…難しいだろうな」
ぽそりとセレンが呟いた。
「え?」
「こないだ半殺しにしたばっかりだ。ダルジュにケガをさせたから」
英雄とダルジュの顔が真っ青になった。
「は、んごろし…?」
英雄が呟くと、ダルジュが「やめろ、思い出させるんじゃねぇ」と叫んだ。昔同じ目に合わされたことがあるみたいだ。
「あ、あ…通りで、一時期接触がなかったと…」
うつろな笑いが英雄から漏れた。
場の空気がとたんに重くなる。
「それにまあ、いきなり兄です、弟よと言ったところでどうなるわけでもなかろう?そもそも私に実感がないわけだからな」
セレンは事も無げにそういった。
英雄は遅くなったことを散々詫びながらオレを自宅に連れて帰ったけど、驚きで眠気なんかどこかへ行ってしまった。
家に入るなりソファに寝転がる英雄の横に腰掛ける。
「くたくただよ。ベッドに行く気力もない」
英雄がへたれた声を出した。
「毛布持ってこようか?」
「いや、いいよ。あとで移動する…クレバスも、もう寝たほうがいい」
「ビックリして眠くなんかねぇよ」
「まあね」と英雄が生返事をした。
「兄弟、か」
英雄がごろりと寝返りをうつ。ホントにだるそうだ。
「…セレン、どうするんだろう」
オレが聞くと、英雄は答えなかった。黙って、天井を見つめる。
「わからないな」
わりと真剣に考えてるみたいだった。
「セレンが心から笑うのも想像つかないし、第一、相手はガイナスだろう」
仲良く手を取り合ってる姿が想像できるかい?と英雄は言った。
オレは無理矢理想像してみた。
セレンと、ガイナスが…ええと。
………。
………。
「無理なんだけど」
というか怖い。互いに腹の底で計略でもなければやりそうにない気がした。
「だろうね」
「でも、そう言えばガイナスとセレンが一緒にいるところ自体見たことないかも」
「ガイナスが意識してたってことだろうね」
英雄が言った。
「え?」
「どう対応していいのかわからなかったんじゃないかな。それで、避けてた」
「ダルジュは撃ったじゃねーか」
「他人だからだろ」
英雄が起き上がって飲み物を取りにキッチンに行った。
「クレバスも何か飲む?」
「同じモンでいいよ」
英雄は初めコーヒーを飲もうとしたらしかったけど、オレの返事を受けてオレンジジュースをコップに注いで持ってきた。
「さっきの、他人だからって?」
「ああ」
一口飲んで向き直る。
「なんていうのかな。元々関心のない相手なら、そもそも憎みすらしないもんなんだよ」
第3世代のコンセプトはそういう心理にひっかけてるんだな、と英雄は言った。
「そして僕らがそれを知って、手が出せなくなると踏んでるんだろう。完全に追撃用だな」
ぽかんとしたオレを見て、英雄が眉をひそめた。
「…クレバス?」
「お前、なんでそれでマージのことはわからないんだ?」
言われた英雄はひどく嫌そうな顔をした。
「君はホントに痛いとこをつくね」
苦そうにオレンジジュースを飲み干すと、「もう寝よう」と言って2階に上がって行った。
上がりかけた足がふと止まる。
「シンヤの胸の爆弾」
英雄が言いながら振り返った。
「あのシステムなら縛ってでも手術すればなんとかなりそうだ」
「本当!?」
「ああ」
「問題はどうやって取り押さえるかだけどね。ま、なんとかするさ」
英雄がうんと伸びをして、もう一度階段を登り始めた。
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