「オレは知ってる!」
ガイナスが動きを止めた。口を開けたまま、オレを凝視する。
「嘘だ」
「本当だ」
ガイナスが何を言おうとしてるのかくらい、察しがついた。
「先輩が血を目当てにお前を傍に置いているのを知ってるって!?嘘だよ、そんなの!今だって先輩はお前を守るけど、ソレは別にお前じゃなくたってよかったんだよ。血液型さえ同じなら、誰だって…」
ガイナスの言葉に英雄が目を伏せた。
そんな英雄を見上げて、唇を噛み締める。ぐ、と強くなにかを確かめて、ガイナスに向きあった。大丈夫、オレは言える。
「知ってるよ」
ガイナスが信じられないというように瞳を見開いた。
「嘘だ…」
「嘘じゃない。オレは許した」
ガイナスの瞳が揺らぐ。
前にダルジュが言った。
『てめぇは、単に信じたいだけだろ?セレンと自分の間に…』
絆があるのかどうか。
ガイナスがこれまで壊してきたのは、英雄の絆だった。ハンズスと、あるいはマージと。そして真実の公開が遅れていたとしたら、今、オレとの。
ガイナスがわなないた。
屈辱のせいか、頬が燃えるように赤い。
「嘘だ…」
英雄がガイナスの変化に気づいた。
「ガイナ…」
声をかけようとする矢先、ガイナスが叫ぶ。
「僕は信じない!!!!!」
言うのと、目の前が光るのは同時だった。
英雄が傍の馬鹿でかいダストボックスをひっくり返す。オレを抱えてそこに飛び込んだ。
物凄い轟音と共に炎が駆け抜ける。ボックスがなけりゃ黒こげ確実だ。
「な、なに!?」
オレはいまいち状況がつかめない。
「ガイナスが火をつけたみたいだな。気化したガソリンが一気に炎上したんだ」
「まったく気性の激しいのは誰に似たんだか」
いつの間にか隣にいたセレンが嘆息した。
「炎の風が止んだな」
そう言ってセレンがボックスから顔を出す。
燃え盛る炎を背にガイナスが立っていた。
「ガイナス、こっちに来るんだ」
英雄が手を伸ばした。
ガイナスが首を振って拒絶する。
「いやだよ…」
「僕は君を救う。その胸の爆弾も外す。シンヤも助ける」
ガイナスの瞳が潤んだ気がした。
「いやだ」
信じない、ともう一度小さく呟く。
じわじわと後退した足は、もう足場から外れていた。
きょとんとした顔のまま、ガイナスが炎の海に落ちていく。
「やれやれ」
セレンがそう言って駆け出した。
落ちて行くガイナスの手を駆け寄ったセレンが掴んだ。
「な!」
信じられないという表情のガイナスにいつもの笑みで笑いかける。
「兄、なんだろう?私は」
そう言って、くるりと反転してガイナスの体を英雄に向けて投げる。丁度ガイナスと位置を入れ替えたような形になった。
宙に浮いたガイナスを英雄が抱きとめた。
セレンが、そのまま炎の海へと落ちていく。
いつもの、余裕たっぷりで優雅な笑みを浮かべたまま。
気にして、た?
『探し物をしているんだよ』
セレンが?
『このくらい、かな』
嘘だ。だってそんなの全然らしくない。
炎があっという間にセレンを包んだ。もう姿が見えない。
嘘だ。
だってそんなの…
全然らしくない!!
「セレン―――――――――!」
オレの声に返事は返ってこなかった。
轟々と猛る炎を見つめて、ガイナスを睨む。
「お前…!」
英雄の腕の中のガイナスは、目を見開いたまま小刻みに震えていた。
「あ…あ」
セレンの消えた炎の海を見ている。
涙がじわりと、その瞳に沸いた。
「うわあぁぁああ!」
ガイナスが絶叫して崩れ落ちた。
英雄がそれを痛ましそうに見ている。
『なんとも思っていない人間なら、そもそも憎みすらしないんだよ』
崩れて泣き叫ぶガイナスは、とても人間らしい表情で、オレは…
初めて、ガイナスがオレと同じ子供なんだと思った。
セレンを呑みこんだ炎は赤くいつまでも猛っていた。
火の粉が夜空に弔いの蛍のように飛ぶ。
英雄がオレの肩に手を置いた。
見上げると優しい目で微笑まれた。
それをみて、涙が出る。
「セレンが…」
「うん」
英雄の声は穏やか過ぎて、それ以上言葉にならなかった。
涙が枯れるまで泣いたかと思われるガイナスは、真っ赤な目をしていた。
力なく立ち上がって、「あんたのプランに乗るよ」と英雄にむけて言う。
「でも、シンヤは止められない」
英雄は少し眉を寄せて、「大丈夫だ」と答えた。
「あの子は、なにがあっても僕が助けるよ」
セレンを呑んだ炎を見ながら、英雄が言った。
まるでセレンに誓うかのように。
第33話 END