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第34話 「明日、僕が戦うそのために」

 ガイナスと別れたその足で、英雄は”Green&Green”に向かった。
 夜用の開店準備をしていたダルジュに「閉めてくれ」と一言告げる。
 一瞬渋い顔をしたダルジュは、それでも英雄の言うとおりにした。
 ダルジュが「本日閉店」の札を表に掲げたとき、店の電話が鳴った。
「あ、電話…」
 オレが言うと、ダルジュがすばやくそれをとった。
「店電にかけるなっつったろうが。別になんもねーよ。携帯どっかいっちまったみたいだ。あん?どうせセレンが持ってったんだろ」
 電話の相手はカトレシアらしい。
 受話器を肩で挟みながら鉢の移動をしていたダルジュが、ちらっとオレ達を見て面倒くさそうに舌打ちした。
「…今客が来てっから。切るぞ。いいな」
 返事を待たずに切る。
 それを見ていた英雄がぼそりと言った。
「新しいものを買ったほうがいい。戻ってこないよ」
 ダルジュが怪訝な顔をする。
「セレンと一緒に、炎の海に沈んだ」
 告げる英雄はあくまで穏やかな声だった。疑り深いダルジュの視線が英雄を貫く。
「なに言ってんだお前」
「見てきたことを言ってる」
 ダルジュが嘆息した。
「いちいち信じられねぇ。俺は信じねぇぞ」
「どうぞ、ご自由に。ところで皆を呼んでくれないかな」
 一度言われたままに受話器に手を伸ばしたダルジュが、「ふざけんな自分で呼べ」と英雄に電話本体ごと投げてよこした。受け取った英雄が笑う。
「なんだ、動揺ついでに言うこと聞いてくれるかと思ったのに」
「誰がだ、死ね!」
 言いながらダルジュがいらいらと爪を噛んだ。
「動揺してる時のクセなんだよ」
 と英雄が小声で教えてくれた。


 明日の夜、全てを終わらせようと英雄は皆を集めて言った。
 ”Green&Green”の狭い従業員用の部屋の白いテーブルに、組織の内部地図を広げる。
「内部手引きはガイナスに任せよう」
「あんなヤツ信用できるか」
 ダルジュが吐き捨てた。
「大丈夫だ」
 英雄が請け負った。
 そう思わなければセレンが浮かばれない。
「ガイナス達の体内爆弾を外す必要がある。リモコンの場所は本人達も知らないらしい。侵入とほぼ同時に監視カメラを破壊する。…ハンズス、頼む」
 英雄がハンズスを見た。黙って腕を組んでいたハンズスが、腕をほどいて「わかった」と言う。
「その場で取り出せばいいんだな」
「少し離れた場所のほうがいい。車で待機していてくれ」
「ドンパチやってる只中で手術か!?ざけんな!」
「なに言ってるんだ、大真面目さ」
 ダルジュの抗議に英雄が肩をすくめる。
「シンヤは僕が取り押さえる。アレクは遠距離からのサポートを」
「ワカリマシタ」
 アレクが頷いた。
「組織の主要メンバーはどうする?説得に応じるとも思えないが」
 ハンズスが聞く。英雄がさらりと言った。
「必要があれば殺す」
 なにか抗議しかけたハンズスが言葉を呑んだ。
「英雄…」
 英雄がオレを見て微笑んだ。くしゃりと頭を撫でる。
「明日の23時、この場所で」
 英雄が皆を見渡して、そう告げた。

 
 その帰り道、珍しくハンズスも一緒に道を歩いた。
「あそこからの帰りでお前と歩くの初めてかもな」
 ハンズスが言う、息が白い。
「ああ」
 英雄が答えた。オレの手を引きながら、少しゆっくり目に歩く。二人ともオレを気遣ってるらしかった。
「怒られるかと思ったよ。クレバスがちゃっかりあの場にいるから」
 英雄が苦笑する。
「言ったって聞きやしないだろう?もうわかってるよ」
 ハンズスがオレを見て笑った。
 英雄の唇が満足げに微笑んだ。それが、ふ、と消える。
「ハンズス」
 真剣な声だった。
 ハンズスが笑ったまま英雄を見る。
「僕が頼んだせいで、明日、君は死ぬかもしれない。それくらい危険なことを、僕は君に頼んだ。僕らには闘うべき理由がある。でも君は関係ない。離れようと思えばいつだって…」
「英雄」
 英雄の言葉をハンズスが遮った。
「彼らはお前の仲間だな。じゃあ、俺はお前のなんだ?」
 英雄が立ち止まる。
 数歩進んだ先で、ハンズスも立ち止まった。ゆっくりと英雄を振り返る。
 英雄がわずかに力をこめてオレの手を握った。
「友人、だ。大切な」
 ハンズスの顔が微笑んだ。
「じゃあ一言でいいじゃないか。”明日は頼んだ”それでいい」
「ハンズス」
 英雄が気遣うようにハンズスを呼んだ。
「俺を巻き込むと決めたんだろう?ならとことん利用しろ」
 ハンズスが立ち止まった英雄に向けて歩を進めた。迷いを見せた英雄を抱きしめる。
「俺はようやくお前の役にたてる。それが嬉しいんだ。自慢させてくれ」
 驚いたように立ち尽くしていた英雄が、開いた手をハンズスの背に回した。
「いつだって、助けになっていたさ」
 二人がわずかに身を離す。額をあわせるような至近距離で、互いの瞳が交差した。
「明日は頼む」
「まかせろ、親友」
 それから、二人は額をあわせてくすくすと笑い出した。
 まるで少年時代に還ったように。
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