純白の車が、滑らかな動作で路肩に止められた。フロントに女神のモチーフを掲げた車は、デザインのひとつひとつが洗練されていた。天使の綿毛を思わせるボディは、埃ひとつ見当たらなかった。運転席を出た青年は、褐色の肌をしている。柔らかなウェーブのかかった金髪に、やはり白の衣装を身に纏っていた。青年が、うやうやしく後部座席のドアを開ける。
「サラ様、どうぞ」
差し出された手にとまどいを感じつつ、サラはラスティンを見上げた。
「……そこまで、しなくても」
「いいえ」
あくまで微笑を絶やさぬまま、ラスティンは告げた。
その顔を見たサラの目が瞬く。
以前は、ラスティンの笑顔の底にある冷たさのようなものが怖かった。けれど、今はそれを感じない。教団の再建に力を尽くし、サラを支える彼には、滅私という言葉が似合うような気がした。
「では、サラ様のお好きなように」
サラのとまどいを感じてか、ラスティンが一歩引いた。
礼を述べたサラが、家へと踏み出す。
サラの部屋では、広げられたノートが主の帰宅を待っていた。
風が悪戯にページを捲る。そこに書かれた文字を楽しんでいるようだ。
あれから、一ヶ月が過ぎた。
叔母の家に戻った私を、叔母達は抱きしめた。嬉しくって申し訳なくて、涙が出た。
時々あの数日を思い出しては、夢だったのではないかと思う。
思い返す度に胸が熱くなる、駆け抜けるような日々だった。こうして日記にしていても、なんだか嘘くさく感じてしまうほどだ。
チャイムが鳴った後、叔母が私を呼んだ。
私宛の荷物が来ているそうだ。送り主の名はない。
けれど、真っ白な包みに、グリーンの優美な書体で「G&G」と書いてある。
びっくりした私は、荷物を抱えて自分の部屋へと駆け込んだ。胸の高鳴りを押さえながら、箱を開ける。
そこには、真っ白なブーツが入っていた。天使の羽をあしらった、可愛らしいデザインだ。そして、メッセージカードにたった一行刻まれていた文字。
『これから歩き出す君へ』
「ああ!」
私はブーツを抱きしめた。
夢じゃない証が、ここにある。
ニューヨークの片隅にあるそのバーで、とあるカクテルを注文すると、白と黒の天使が自分の苦悩を聞いてくれると言う。自分の訴えに善があれば白の天使が慈悲を、悪意が垣間見えれば黒の天使が罰を下すのだと。
嘘じゃない。
私は知っている。
私は彼らに出会ったのだから!
【DTH3 DEADorALIVE・完 2006.2.22〜2009.1.20】