無敵戦隊シャイニンジャー

 真っ白な光が自分を目指して飛んでくる。
 母親に抱かれたあの子が無事で良かった。
 満足げに微笑んで、レッドは静かに目を瞑った。
 
 いつまでも衝撃は来なかった。

「…?」
 不思議そうに瞼を開けるレッドの前に、見慣れた人影が立ちはだかっている。
 黒の作務衣に、木製の数珠。破壊されたビルの瓦礫を力強く踏みしめる草履に覗く裸足。坊主のくせに茶髪なんだと言ったら怒った長身が、レッドをかばうように立ちはだかっていた。
「ブラック…」
 呆然とレッドが呟く。ブラックが手にした数珠が音を立てた。
 どうやらそれで光線を弾いたらしい。
「よ。ピンチらしいな」
 振り返ったブラックがからかうような笑みを見せた。
「…え」
 理解しきれないレッドの手を、いつの間にか歩み寄ったブルーが持ち上げる。
「スペアです。…全く、変身も出来ないのに無茶をする」
 小言を言いながら自分の腕にブレスをはめるブルーと相変わらず自分の前からどこうとはしないブラックを、レッドは不思議そうに見た。
「…来て…くれたんだ…」
 意外そうなレッドの声に、ブルーは「当然です」と綺麗に微笑んだ。
「(まだ働いてもらうんですから)あなたになにかあっては大変です」
 一瞬背筋を掠めた寒気に疑問を持ちつつ、レッドは自分の右手首を見た。真新しいシャイニングブレスが、誇るように輝いている。
「…ありがとう」
 ほんわりとした笑顔でレッドが告げた。にやにや笑いを続けるブラックに、居心地悪そうにブルーが咳払いをする。
『なんだ貴様ら!?』
 ネオロイザーの声に三人が振り返った。
「今日はサイか」
 ブラックが組んだ指を鳴らす。
「ひねりがないのはどうかと思いますよ」
 ブルーが気だるげにネクタイを緩めた。
「いいじゃんか」
 レッドが言った。
 拳を掲げる。
 シャイニングブレスが太陽の輝きを弾き返した。

「シャイニング・オン!!」

 三人の叫んだキーワードに反応したブレスが、まばゆい光を放つ。一瞬後に現れた彼らは、シャイニングスーツを纏っていた。スーツはそれぞれのコードネームに即したカラーの赤・青・黒。流美な白い曲線が人体の滑らかさを強調していた。額に記された紋章は地球を模している。

「無敵戦隊!シャイニンジャー!!」

 勇ましく告げる彼らの背後で起きた爆発が、モニターに色を添える。
 復旧したモニターでそれを見た野村長官は、瞳を潤ませながら何度も頷いた。
「…三人、揃ったのは初めて見たな…」
「参考までに申し上げますと、現時点までの3ヶ月の出動回数は、レッド42回、ブラック13回、ブルー4回です。ブルー出動時は、レッドが寝込んでいたりブラックが法事だったりと止むを得ない事情があるケースのみですね。出動後は、斎藤家具から法外な額の危険手当請求書が来ます」
 気を利かせたオペレーターがこれまでのデータを告げた。きりりと食い込むような腹の痛みに、野村長官は顔をしかめた。冷や汗が額を伝う。
「だ、大丈夫ですか?」
 オペレーターの時田ナナが、心配そうな顔をしながら長官に茶を差し出した。明るい色をしたショートボブがアクティブな印象を与えている。見た目と違い、ひどく内気なのだと知ったのは最近のことだ。けれど、頼む前に茶を入れたり、花瓶の水を取り替えたりと見えないところで気を利かせてくれる。ナナのそういうところに、長官は好印象を持っていた。
「ああ、…ありがとう。時田くん」
 照れたように、小さくナナが微笑む。その笑みは、小さな野の花を思わせた。
 長官が再びモニターを見上げる頃には、戦闘はもう終わっていた。



 ネオロイザーが無念の言葉を残し、爆発したのを見届けて、三人はスーツを解いた。
 破壊された街の中で、無事な斎藤寝具本社ビルを見たブルーがため息をつく。
「私としたことが。…どさくさに紛れて社長をやるべきでした」
「眼中になかったくせによ」
 可可、とブラックが笑った。
 足元の瓦礫が、店の看板を示していることに気づいたレッドが深刻そうな顔をした。
「壊れちゃった店の人とか、平気かな」
「ネオロイザーによって破壊された人のための特別復興支援プロジェクトがあります。1両日中には元に戻されますよ。さて、私はこのまま社に戻ります。仕事がありますので、失礼」
「ブルー」
 背を向けたブルーにレッドが声をかけた。
「なんです」
 振り向かないままブルーが答える。
「ありがとう。来てくれて」
 ブルーは答えず、足早に去って行った。怒りの気配を敏感に察したレッドが恐る恐るブラックに尋ねる。
「オレ、怒らせちゃったかな」
「どうだか」
 ブラックがからかうような視線でブルーを見送った。
「あれで結構心配してたみたいだぜ?」
「うん…でも」
 言いかけたレッドが、「お兄ちゃん!」と遠く呼ぶ声に気づいた。見れば、先ほどの男の子が千切れんばかりに手を振っている。その横で母親が深々と頭を下げていた。
「ありがとう!」
「おー!」
 レッドが叫び返しながら大きく手を振った。
 やがて男の子が見えなくなると、ようやくその手を下げる。そして、ぽつりと呟くように言った。
「やめられないんだ」

 後日、シャイニンジャー秘密基地に斎藤寝具から請求書が届いた。超・危険手当と題されたそれは、野村長官に泡を吹かせるほどの金額だったと言う。

〔Mission1:終了〕

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