無敵戦隊シャイニンジャー

Mission3: 「純情・愛情・激情」

 シャイニンジャー秘密基地に欠かせないのはオペレーターの存在である。
メインルームのモニターの下に並べられた椅子の数は16。白のジャケットに、体のラインを綺麗に浮かび上がらせるタイトな黒のワンピース、白のブーツという揃いのユニフォームを着た彼女達は基地の花形的立場であった。顔で選んだのではと噂されるくらいに、美人揃いでもある。
 時田ナナも、その一人だ。
 派手さのある顔立ちではないが、大きな瞳が印象的だった。
 オペレーターの倍率はそれなりに高かったと聞く。未だに、どうして自分が選ばれたのかがわからない。そう思って下を向く自分がまた嫌だった。引っ込み思案な自分を変えたいと思って、髪の色まで明るくしたのに。
 中身が変わらないんじゃ、どうしようもない。
 はあ、とナナが息を漏らしたはずみで、見た目だけは活発なショートボブの毛先が揺れた。
「あ」
 その時、ナナは画面の中に小さく点滅する「UNKOWN」の文字を見つけた。通称「ネオロイザー反応」。点滅するその文字が、ネオロイザーの位置を示している。
「あ、あの…っ」
 慌てて言おうとしても声が出ない。
 もたもたしているうちに、別のオペレーターが叫んだ。
「ネオロイザー反応!座標154.16.222.80!」
「…あ…」
 口を開けたまま呆然とする。これで何度目だろう。見つけるのが早くても、これではまるで意味が無い。ナナはよろよろと立ち上がると給湯室へと向かった。お茶でも淹れて気分を落ち着けようと思ったのだ。
「よ、ナナちゃん。惜しかったね」
 ぽん、と背中を叩かれ驚くと、ブラックが笑っていた。ナナが振り向く頃には、もうブルー達と談笑しながらどこかへ行ってしまっている。
「ブラックさん…」
 じわり、と涙がこみ上げる。
 いつもこうだ。彼女が落ち込んでいる時にふらりと現れては、声をかけていく。
 それはほんの些細な言葉なのだけど。
 それでも、降り積もった言葉には力がある。
 彼女は、いつの間にかブラックが好きになっていた。


「いやー、眼福眼福」
 メインルームのソファに腰掛けながら、ブラックは可可と笑い声を上げた。洋風のソファに、黒の作務衣が不似合いだった。大らかそうな笑顔に茶髪、首から下げた数珠がかろうじて彼の職業を主張していた。この体たらくで坊主なのである。茶髪にはヅラ説があるが、本人は自毛だと主張していた。
「酒はある、美人は多い、レッドは働き者!なあ」
「えらく上機嫌ですね。どうしたんです」
 ブルーの問いにブラックは膝を叩いて答えた。
「檀家さんがいい地酒くれてさ。これがまたうまいのなんの」
「飲んだんですね」
「ちょっとな。飲むか?」
 一升瓶を抱えたブラックがにやりと微笑んだ。一瞥したブルーが「結構です」と断りを入れる。
「これから社に戻らねばならないので」
「なーんだ、つまんね…」
 ぼやきかけたブラックが、テーブルの片隅で参考書を広げているレッドに目をやった。ノートに絶え間なく数式が書かれていく。ずいぶん熱中しているようだ。
「レッド、お前は?」
「え」
 レッドが返事をする前に、ブラックの頭を長官が掴む。爪先を食い込ませないのは、せめてもの理性なのだろう。
「…未成年だろうが…!」
 地の底から這い出るような声に、ブラックはひきつった笑いを浮かべた。
「あはは、冗談っすよ。冗談。長官もどうです?」
「職務中だ。それより、全員揃っているな。ひとつ話がある」
 長官は話しながら、自分のデスクへと向かった。黒の革張りの椅子に腰掛けると、腕を組んで三人を見渡した。三人が長官に注目するのを見計らって口を開く。
「先日宮田主任が襲われたのは知っての通りだ。今後も、状況によって危険が増すことが考えられる。無論、お前達もだ。そこで、世界的な名医をスタッフに加えることにした」
「ほう」
 ブルーが興味深そうに頷いた。
「主に野戦病院で経歴を積まれた方だ。戦場を転々としているので、連絡が中々つかなくてな。ようやく捕まえられた。生まれはアメリカのフランス人で…」
 医師の経歴を聞くにつれ、徐々にブラックの顔が青ざめて行った。
「ブラック…?」
 レッドが不審そうな声を出す。
「ちょ、俺…」
 言葉を濁しながらブラックが立ち上がった瞬間、
「カイー!」
 陽気な声が響くと共に、その人物はブラックに抱きついた。勢い、ブラックがソファーに倒れこむ。
 長く伸びた金髪。肌はずいぶんと白く、彫りも深い。白衣の下のVネックとズボンは、品のある黒色だ。胸のチェーンに、軍の識別コード票をいくつか下げている。服の上からでも骨太な印象を持たせる、がっちりした体つきをしていた。
「ス、ステファン…!」
 ブラックが呻いた。ステファンは、流暢な日本語でまくし立てた。
「久しぶりねぇ。また、あんたに会えるなんて。浮気してない?」
 凄みさえ感じさせる笑みをステファンが刻む。ブラックは振りほどこうとしているようだが、びくともしない。
「ステファン・ロード医師だ。…知り合いだったのか?」
「昔、戦場でちょっと」
 にこりとステファンが微笑んだ。
「ね、カイ?」
「誰がだ。くっつくなよ。おい、キスするな!」
 くすくすと笑いながらじゃれるステファンを持て余していたブラックが、その動きを止めた。ステファンがブラックの目線を辿る。
 その先に、入り口で盆を持ったまま立ち尽くしている時田ナナの姿があった。
 盆の上で湯呑みが小刻みに揺れている。ナナは信じられないという顔をして、ブラックとステファンを凝視していた。
「ナナちゃん…」
「あら?こっちでのカイのステイ?」
 ブラックの上からどこうとしないまま、ステファンが微笑んだ。歓迎を表したその笑みは綺麗なもので、それだけでナナの背中を押す力を持っていた。
 瞳を潤ませたナナの手から盆が抜け落ちる。
 そのまま、ナナはメインルームから駆け出していた。
 その後姿を呆然と見送る三人と長官。長官愛用の湯呑みが、床で砕けていた。
「もしかして」
 ステファンが口を開いた。
「まずかった?」
「まずいに決まってるだろ。何考えてるんだお前…」
「ふうん」
 ステファンがつまらなそうに頷いて、ブラックからどいた。
 癖のない長髪をかきあげながら、立つ。ブルーとレッドは唖然とした。
 ブラックよりもはるかに背が高い。
 肩幅も広く、肉付きもいい。なにかスポーツでもやっていそうな、見事な逆三角形の体型。
「え、男…?」
 レッドが呟く。「そうよ」とステファンは女性的な顔で微笑んだ。ブラックがむせながら「こんなごつい女がいるかよ」と毒づいた。その胸倉をステファンが掴む。
 持ち上げられたブラックの足が浮いた。
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