無敵戦隊シャイニンジャー

Mission5:「出撃!シャイニングロボ!」

 シャイニンジャー秘密基地のメカニック主任、宮田ナルは一作業終えるとゴーグルを外して立ち上がった。地球の科学技術をどうにか駆使して、形にはなったように思う。宮田はメガネをかけて、自分が作ったものを見上げた。
 全長400メートルはあろうかという巨大ロボ。今の地球科学の技術の結晶だ。特殊合金のボディが誇らしげに輝いている。今後の助けになればいい、と宮田は切に願った。
「宮田主任、話って?」
 呼び出されていたレッドがメンテナンスルームに姿を現した。
「来たな、レッド君。これや、見ぃ」
 主任の刺繍を施した詰襟の作業着を着た宮田が、誇らしげに顎で指し示す。促されるようにそちらを見たレッドが、感嘆の声を上げた。
「すごい…!」
「シャイニングロボや。メカニックチーム総出でようやく作り上げたで」
 オモチャやテレビの中でなら、何度も見たことがある。
 人の形を模したロボット。ボディは白を基調として、アームなどのパーツが赤や青、黒のカラーを纏っていた。滑らかに光るボディ、その足の部分に、レッドは手を伸ばした。磨き上げられたコーディングに、自分の手がまるで鏡のように映りこむ。触れると、金属独特の冷たさがひやりと染み渡った。
 ほう、とレッドが息を漏らす。
 それから、ロボの顔を見上げて、告げた。
「一緒に正しいことをしよう」
 レッドの声にロボが答えることはなかったが、それでもレッドはその声を聞いた気がした。
「緊急招集というから何事かと思えば…ようやく出来たんですね」
 ブルーの淡々とした声と共に、ブラックの間延びした声が聞こえた。
「ふわー、でっけぇもん作ったなぁ」
 呆れているのか感心しているのか判別しがたい顔で、二人は宮田主任の元に歩み寄った。
「ちゃんと使うんやで」
 スパナを持った宮田が釘を刺す。もちろんちゃんと使いますよ、とブルーは頷いた。
「徹夜続きだったようですね」
 ちらりと片隅に目をやったブルーが呟く。屍のようなメカニックが、そこここに倒れ伏すように眠っていた。泥のように眠り込む彼等は、そのまま床に溶けそうな雰囲気ですらある。
「まあな。いつ急に入り用になるかわからんし…ちぃと無理させたかもしれん」
「しょーがねー、部屋に運んでやるか。レッド、手伝えよ」
「うん!」
 ブラックがメカニックに向けて歩き出す。頷いたレッドが後に続いた。動こうとしないブルーを、宮田が横目に見た。
「あんた、行かへんの?」
「部屋まで送りますよ」
「あはは、何言うてるん。あたしやったら、平気…」
 言った傍から宮田がよろけた。ブルーが顔色ひとつ変えずに脇に手をやり、宮田を支える。
「あれ?」
「どうせその調子で無理したんでしょう」
 なにか言いたそうな宮田の視線に、ブルーはなんです、と呟いた。
「あんた、こないだのアレどうしてん?」
「アレ?」
「ネオロイザー識別タグや。あたしや、生態調査用のネオロイザーについとるやつ。オペレーターのネオロイザー探査システムに反応せんように作られたタグなんか、なんに使うん?」
「世界平和のためですよ。良ければ今度ラーメンをごちそうしましょう」
「なんやそれ」
 あんたが何考えてんのかさっぱりわからんわ、と宮田はこぼした。
「ああ、でも、このまま送ってもらうってのはいいかもしれんな…」
 言いながらも宮田の瞼がおちていく。やがて、ブルーにもたれながら、宮田は小さな寝息をたてた。
「おつかれさまでした」
 聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で、ブルーが囁く。宮田はすでに眠りに落ちていた。


 シャイニングロボは、分解・合体が可能であると長官は説明した。
 メインルームのモニターに、ロボの設計図が現れる。長官が該当パーツを指揮棒で差しながら、珍しく黙って聞いている三人に話し続ける。
 合間を見て、ナナが長官に茶を差し入れた。湯呑みに「長官」と墨痕鮮やかに刻まれた新しい湯のみである。先日割ってしまった詫びにとナナが贈ったものだった。
「分解後は3つのパーツに分かれる。戦車タイプの地上車、ドリルで地下に潜れる潜行車、それから飛行タイプの戦闘機だ。地上はレッド、地下はブラック、上空はブルーの割り当てだな。操作マニュアルが手元の資料にあるだろう。操作法は出来る限り簡易にしてある。シュミレーションルームを用意してあるからそこで練習をしてくれ。時田君」
「は、はい」
 突然呼ばれたナナは、おろおろしながら立ち上がった。
「君が操作法を見てやってくれ」
「え、わ、私が…?」
「わかるだろう?」長官が不思議そうにナナを見た。なにをためらっているのかがわからない。オペレーターの操作テストの中で、ナナが最も成績が良かったのだ。
「あ、あの…」
 ナナはじんわりと目に涙がたまるのを感じた。操作方法は確かに身につけていたけれど、でも、どうして自分なのだろう。上手に教える自信などどこにもない。
「よろしく頼むぜ、ナナちゃん」
 ブラックがぽんと肩を押す。ナナは反射的に、頷いていた。

 シュミレーションルームは、メカニック達の開発エリアの中にあった。元々、開発途中の動作テストなどで使われていたものをアレンジしたらしい。
 操作室だけを再現した部屋は、ゲームセンターで見かけるレーシングゲームを思い起こさせた。
「よっしゃ、やってみるか」
 ブラックが腕を鳴らしながら、どかりと運転席に座る。レッドとブルーも、それぞれ席に着いた。
 出来る限り操作法を簡易にしたと長官は言っていたが、それでも目の前の基盤は、飛行機のコクピットから2〜3のスイッチを取った程度の密集ぶりだった。
「あ、あの…」
 ナナがおずおずと声をかけるのをブルーが制した。
「時間がありませんから、こうしましょう。各自、マニュアルを見て操作。わからなければ、時田さんに聞く。それでいいですね?」
「え、ええ」
 ブルーに呑まれるような形で、ナナは頷いた。
「わかった」
 答えたレッドとブラックが手元のマニュアルを開いた。スイッチを押すたびに、目の前の画面に模擬景色が浮かび上がる。操作方法も画面に提示されていた。本当にゲームのようだとブルーが呆れる。
「これで前進、後退、で、ミサイル、と」
「レッドさん上手ですね」
「うーん、ゲームよくやってたからかな」
「そうだな。これくらいならなんとかなりそうだ」
 レッドの言葉にブラックが同意する。
「あ、嘘。わかんねーわ。ナナちゃん、ここ見てくれる?」
 片手を上げたブラックにナナが駆け寄った。
「は、はい」
「キャタピラの角度操作がこうだろ。で、地上に出たときのバランス制御なんだけどさ。ストックレバーを引いて、それから…」
「ああ、それはですね」
「すみません、それが終わったらこちらもお願いできますか?」
 ブルーが軽く片手を上げる。
「はいっ」
 ナナが慌てて返事をした。
 突貫工事に近いオペレーションは、深夜まで続いていたという。
Copyright 2005 mao hirose All rights reserved.