無敵戦隊シャイニンジャー
Mission6:「ニセモノ現る!」
野村長官は、うつろな笑みが漏れるのを自覚した。
シャイニンジャー秘密基地のメインルーム、彼の机に山と積まれた書類の束の内容は決まっている。
苦情だ。
前回ブラックとブルーが地下潜行車でネオロイザー出現地に向った際、地下に集中する都会のライフラインを断絶させたのは記憶に新しい。
水道管の破裂が4箇所。2箇所は地上にまで水が噴き出した。そして電気、電話線を惜しみなく引きちぎり、地下鉄の一部に土砂が崩れて一時運休となったのである。
そのツケが、今目の前に書類という形で押し寄せている。
予測すべきだったのだ。
彼等にロボを渡すその時に。
己の不明を恥じながら、野村長官は書類に手を伸ばした。
「…ん…?」
書いてある文字列を見間違いかと思い、目をこする。もう一度目を開き、文字を読んで、…彼はその場で失神した。
「過労」
慌てて医療ルームに運ばれた長官を診たステファン医師が、にべもなく告げた。相変わらずの女顔に、がっしりした体つき。黒のVネックとズボンが白衣に映えてシャープな印象を持たせていた。長い金髪を凝ったアレンジで結べるあたりに暇さが滲み出ている。
ステファンの言葉を聞いたブラックとブルーが呆然とした。
「なぁんだ。いきなり倒れたりすっからヤバイ病気かと思ったぜ」
ブラックが頭を掻く。ブルーが嘆息しながらネクタイを緩めた。
「何言ってんのよ、諸悪の根源共が」
ステファンが毒づいた。
「諸悪…?」
小首を傾げるレッドに、長官が握り締めていた書類をめんどくさそうに広げて見せ付ける。
「な…!」
それを見たレッドが絶句した。驚きに見開かれた瞳、わなわなと震えた体が、すぐに二人に向き直る。それははっきりとした怒りを宿していた。
「ブラック!ブルー!」
「なんです?」
「なんて事を…」
「なんてことしたんや!このアホ共が!!」
レッドの糾弾は、乱入者によって阻まれた。宮田主任である。宮田はためらわずにブルーの胸倉を掴んだ。
「このアホが!」
「なんです、不躾に」
「テレビ見てみぃや!」
ステファンが片眉を上げたまま、テレビのスイッチを入れた。
大型の液晶画面に臨時報道と題されたニュース映像が飛び込んできた。アナウンサーの女性が矢継ぎ早に情報を述べる。
「臨時ニュースです。都内のATMをごっそり強奪するという事件が起きました。目撃者の話では、犯人は巨大なロボットだったそうです。巨大ロボットを操り、ATMを摘むように持っていったとの証言が…あ、犯人のモンタージュが出来たそうです!」
画面に映し出された鉛筆画のモンタージュを見たブラックがむせる。ブルーは冷めた目線のままそれを見ていた。
緻密に描かれたモンタージュは、変身後のブラックとブルーの顔だった。
「あらまぁ」
ステファンが感心した。レッドは半ば放心している。ブルーは、自分を掴んだままの宮田を見ながら聞いた。
「事件はいつ起こったんですか?」
「今さっきや」
「私達はずっとここにいましたよ。ロボだって動いていないでしょう?」
「え?」
「そうね」
ステファンが同意する。宮田はしばらくブルーの顔を凝視していた。
「…すまんかったわ」
謝りながら、手を離す。
「悲しいほどに信用がないんですね」
ブルーがネクタイをし直す。宮田は唇を噛み締めて頷いた。
「ステファン、それは?」
「これ?見る?」
ブラックがステファンが手にしていた書類を手にした。さっと目を走らせた途端に声を上げる。
「はあ?幼稚園バスをジャック?俺達が!?」
「3時間ほどで解放したらしいけどね。心当たりは?」
「あるわきゃねぇだろ!」
ブラックが叫んだ。
「て、言うことは…」
レッドが呟いた。
「ネオロイザー!?」
「決まってるでしょう」
なにを今さら、とブルーが言う。
「偽者でも用意したんじゃないですか」
ブルーが言い終わらないうちに、基地内にサイレンが響いた。オペレーターの声がそれに続く。
「ネオロイザー反応!座標98.23.111.67!ブラックとブルーが対戦中です」
「…ここにいるんだがなぁ」
ブラックがぼりぼりと頭を掻いた。
「オペレーションシステム、少し見直したらどうですか」
ブルーの言葉に宮田が「そうやな」と頷く。
「さて、偽者の顔でも拝みに行きますか」
腕を鳴らしながらブラックが歩き出す。
「あ、オレも」
続こうとしたレッドをブルーが制した。
「貴方は結構ですよ」
「え」
凍てつくようなブルーの冷め切った瞳が、レッドを見下げた。先ほど二人を頭ごなしに怒ろうとしたことに腹を立てているのだと気づく。
「私達を信用できないんでしょう?」
「そんなことは…!」
抗議しようとして、レッドは口を開けた。言葉がうまく出て来ない。
レッドを残したまま、ブラックとブルーは医療ルームを後にした。
ブラックの草履の音が、近代的な基地の廊下に響く。
「俺、結構ムカついてるんだけど。そっちは?」
およそ怒っているとは思いがたい間延びした声でブラックが尋ねた。
「当たり前ですよ」
ブルーが同調する。冷静な声に怒りが滲んでいた。
「やり方がぬるいんです」
ATMに入っている金額などたかが知れていると、真剣な瞳でブルーは告げた。
「だよなぁ。やるんなら幼稚園バスじゃなくってキャバクラの送迎カーだろっての」
好色さを滲ませて、ブラックは可可と笑った。からからとした笑い声に、ブルーが苦笑する。
次の瞬間、二人の戦士は顔から笑みを消し、戦場へと足を速めた。
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