無敵戦隊シャイニンジャー

Mission8: 「激闘・敗走・Runaway」

 シャイニンジャー秘密基地にレッドが姿を現したのは、それから1分後のことだった。基地内の自室で寝ていたところをたたき起こされたらしい。ところどころ髪が跳ねているのは、寝癖なのかわざとなのか判別しがたかった。
「緊急コールって、なに?」
 あれだ、と長官がモニターを示す。レッドがそれを見る前に、美沙がレッドに抱きついた。
「きゃあ、本物のレッドさんだぁ!」
「ん?」
 抱きつかれたレッドが、美沙を見下ろす。じいっと美沙の顔を覗き込んで、レッドは告げた。
「君…誰?」
「なっ!」
 絶句する美沙にブラックが苦笑する。
「な。だから言ったろうが。そこにいるのが誰かなんて気にしない、ってな」
 美沙が涙目になりながらブラックに抗議した。
「うるさいわね!言ったのはアンタじゃないじゃない!」
 くっくっく…と笑うブラックに、レッドが不思議そうな顔をする。
「ええと…?」
 疑問符を浮かべるレッドに、美沙は咳払いをした。
「あたし、野村美沙です。こないだ…」
「ワシの娘だ。それはいい。それよりも」
「おとーさん!」
「邪魔だ。美沙、下がりなさい」
 本来なら小言のひとつもくれてやるが、生憎それどころではないと長官が畳み掛けた。抗議しそうな美沙の肩にナナが手を置く。
「あ、あっちに…」
 場を移すよう促されて、美沙は歯噛みした。
 メインルームから先刻までの和やかさが消えている。緊張感が押し包み、その中心にいるのは美沙の父親であり、レッドだ。長官から説明を受けたレッドは、モニターに目をやった。押し黙りそこに立つネオロイザーを見つめる。陰影のせいか、美沙にはレッドの顔が幾分精悍に見えた。
 
「時間言ってないからいいんじゃねーの?3日後くらいで」
 ブラックがずずと茶を啜りながら言った。
「むしろ行かないというのがベストでしょう、この場合。妙なフェアプレイ精神で応じないほうがよさそうです」
 ブルーが再び経済誌を広げた。ソファに深く腰掛けたままであるのを見て、心底動く気がないのだとレッドは判断した。
「そういうわけにもいかんだろう、これは…」
 長官が言い淀む。形はどうあれ、ネオロイザーからの宣戦布告なのだ。
「長官、対ネオロイザー地球連合から通信です」
 その名を聞くだけで、長官の眉間に皺が寄った。長官がオペレーターに歩み寄り、通信機器を手に取る。2、3言葉を交わして、長官は通信を切った。
 言われる前にレッドにはわかった。行け、という指令が下ったに違いない。シャイニンジャーはボランティア。それでも、そこに見えない義務があることを三人は承知していた。
「しゃーねー、行くか。ほれ、レッド、行くぞ」
 長官が口を開く前にブラックが告げた。仕方がないですね、とブルーが立ち上がる。
 その変わり身の素早さにレッドは驚いた。
「二人とも…?」
「ぼやっとしてると置いてくぞ」
 ブラックがからかいながらレッドの頭をくしゃくしゃと撫でる。なにするんだよ、とレッドが抗議するのをあしらいながら、三人はメインルームを後にした。
「すまんな」
 その後姿に長官が呟く。
 入れ違い様に入ってきたステファン医師が「なにが?」と首を傾げた。
「いいや、こちらの話だ。なにか…?」
「これから面白いショーが見れるって聞いたから」
 モニターを見たステファンが鼻で笑う。
「これね。宣戦布告してきたネオロイザーってのは」
 モニターの中のギンザを値踏みするように見た。ふうん、と呟いて指先で唇をなぞる。
「強そうね。融通が利かなさそう。オトコとしてはちょっと面白みが足りないかしら」
「戦士型だ。明らかにな」
 自分の椅子に座った長官が腕を組んだ。
 そう。今までの獣や小道具を模したネオロイザーとは何もかもが違う。
 戦闘に慣れていることは一目で知れた。その、強さも。
 ワシはあいつらを止めるべきではなかったか…?
 長官は、指先に力が篭るのを感じた。



 ギンザは、静かに待っていた。
 時折吹く風にさえ、命の脈動を感じる。
 空が青い。自分の星の空は、深い緑色をしていた。澄むような空の高さ、空気が透明であること、それだけでこの星は豊かなのだと知れた。
 星の人間に恨みはない。しかし。
 旋風が起きる。ギンザは瞳を上げた。
 マントが風をはらみ、揺れる。
 リンゼ様のために…!
 迷いの無いその視界に、現れたこの星の戦士。赤・青・黒のスーツを纏った姿を認めたギンザの目が鋭くなった。
「シャイニンジャーか」
 ギンザが剣を構える。
 振るったその一太刀で、大地が裂けた。

「な…!」
 出会い頭の一撃を、三人はかろうじて避けた。身にまとったシャイニングスーツが、各自の機動性を増しているおかげでもある。
「わりと洒落になりませんね」
 ブルーの言葉に、レッドはただ頷いた。
 今まで何度もネオロイザーに対峙した。一人の時も怖くは無かった。けれど、今は…!
 生物の本能が警鐘を鳴らす。
 戦慄、というものをレッドは初めて感じていた。
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