無敵戦隊シャイニンジャー

Mission10:「Colors〜分岐〜」

 メインルームのすぐ隣にあるミーティングルームで、真っ白なホワイトボードに宮田がペンを走らせる。始め化学式を書きかけた彼女は、それでは話が伝わらないことに気付き、球体のイラストに変更した。マルをいくつか書き、赤と青と黒のペンを使って棒人間を書く。書き終えると、傍のソファーに座っているレッドと、昼休みの終わりを気にしているブルー、手首のシャイニングブレスを見ているブラックを振り返る。
「今まで何度も説明した話やけど、どうせ右から左やろ。シャイニングスーツの話や。よう耳かっぽじって聞き」
「昼休みが終わるので手短に願いますよ」
 出鼻をブルーがくじいた。レッドも口を開く。
「ブラックのブレスが壊れてるんじゃなくて?」
「違うわ。次の段階に入ったってことや」
 宮田はそこで言葉を切り、三人とその後ろで話を聞いている長官を見渡した。
「シャイニングスーツはブレスに収納されている、というんは話したな?スーツを着るにはキーワードの他にもう一つ、必要なものがあるんや」
「なんですか、それは」
「スーツとのシンクロ率。まあ、ココロの力みたいなもんか」
 科学とは程遠い宮田の言葉にブルーが失笑した。ブラックとレッドが唖然とした顔で宮田を見る。
「他にこの星で適当な言葉があらへん。言うたろ?スーツに選ばれたって。あんたらがここにいるのも、あんたらがその色のスーツを着とるのも、皆理由があることなんや」
 宮田は一気にまくしたてた。
「理由、ですか」
「色に理由が…?」
 ブルーが嘆息し、レッドが小首を傾げた。
「せや。目に見える形かどうかは知らんけどな、あんたらはその色に縁があるはずや。だからスーツがあんたらを呼んだんやで」
「で、それと俺が変身できないのとどう関係が?」 ブラックが片手を上げて聞く。
「このスーツには意思があるんや。例えば、戦おうとする気持ちとか、強く願う心。そういったモンに反応する」
「ほう」
 ブルーが興味深げに頷いた。それはどうやら正道でなくともいいらしいと感じたブラックが、ブルーを横目に見て顔をひきつらせる。レッドは講義を受ける学生のような表情で宮田の話に聞き入っていた。
「でや。あたしは坊さんのスーツは間違いなく修復したで。ブレスも別に壊れてへん。変身できないっちゅうんは、シンクロ率の問題や」
「シンクロ率?」
「必要度数っつってもええかもな。坊さんがスーツを必要としている度合いや」
「私にはありませんが?」 ブルーが心外だと言わんばかりに眉をひそめる。「欲しいと思ったことなんてありませんよ」
「あんたには期待してへん」
 宮田があっさりと言い捨てた。
「そんなこったろうと思うて、初期のシャイニングブレスはシンクロ率が10%以下でも反応するように出来とるわ」
「ちょっと待った。今、俺に足りないって言ったばっかりだよな?」
 ブラックが慌てて抗議する。
「それはスーツがノーマルの状態やろ?」
 ええかよく聞き、と言いながら宮田はホワイトボードを叩いた。
「坊さんのスーツは大破した。あたしが直した言うたけど、ほとんどがスーツの自己修復能力によるものや。おまけに、修復の段階でパワーアップしとる。進化みたいなもんやな。その分、変身に必要なシンクロ率が上がっとるっちゅーことや。今までと同じように気安く唱えたところでスーツは力を貸さへん。心から呼ばな」
 しん、と静寂が室内を包んだ。
「えっと、つまり…」
 ブラックが頬を掻きながら呟くように言った。
「スーツには意思がある。治ってパワーアップもしたけど、心底必要とされない限り俺には協力したかないと?要は拗ねてるってことか?」
「身もフタもないまとめ方やけど、まあ、大方そんなもんやな」
 なんだそりゃ、とブラックがぼやいた。
「解決方法は?」 ブルーが聞く。
「シンクロ率の上昇。言うたろ?心から必要とすることや」
「でも、それって…」 レッドがうーんと唸った。
「ブラックの心が変わらないと無理、ってこと?この先もずっと?」
「そうやな」
 宮田があっさりと同意する。「わかりました」とブルーが頷いた。
「心から必要になるよう、今度から彼を最前線に送り込みましょう。命の危機になれば心から呼ぶでしょうし」
「おおおおい!」
 慌ててブラックが抗議する。
 それまで黙って話を聞いていた長官が口を開いた。
「ワシから、2つ質問がある」
「どうぞ」 宮田が態度を改めて聞いた。
「1つ、今からスーツを改変してシンクロ率の調整は出来ないのか?」
「以前も説明した通り、シャイニングスーツには地球科学では不可侵の要素が含まれとるんです。進化する金属生命体だと思ってくれれば一番近いかもしれません。あたしは怪我の手当てをしただけで、進化自体はスーツの力です。今さらどうこうはできませんわ」
 気持ち丁寧な言葉遣いで、微妙なイントネーションのまま宮田が答えた。「そうか」と長官が深刻そうに頷く。
「2つ、スーツの進化、並びにシンクロ率など諸条件の…この際、悪化と言おうか。それがレッドとブルーにも起こる可能性はあるのか?」
 長官の言葉にブルーとレッドがはっとした。慌てて前の宮田に向き直る。宮田は「あります」と答えた。
「スーツの進化がいつ起きるのか、それはあたしにもわから…わかりません。ブラックのケースはたまたま大破がきっかけになったに過ぎへんし、ブルー、レッドに関しても同等の現象が起きる可能性はあります」
 むしろ起きてくれへんと困るのやけど、と宮田は言った。独り言に近い。それから、宮田は手前に座るシャイニンジャーの三人を見ながら話を続けた。
「こないだのギンザ戦でわかったやろ。まだ圧倒的に力が足りんのや。スーツが進化せぇへんと、この先戦いで勝てへん」
「やれやれ」 言いながらブルーが席を立った。
「勝手にスーツに選ばれましたの次は、弱いから強くなれ、ですか。とことん、はた迷惑なものを作ってくれる。おまけに」
 瞬間、ブルーの顔に激しい嫌悪の表情が刻まれた。
「この色が、私を呼んだ…?冗談じゃありませんよ。こんな色に縁なんかありません。昼休みが終わるので、これで失礼しますよ」
 言い捨てるかのようにブルーが部屋を出る。足早に去っていく靴音を聞きながら、ブラックがふあーと伸びをした。
「心当たりバリバリって顔だったな」
「色かぁ…ブラックは、ある?心当たり」
「んー、まぁ、これかなーってのは」
 で、とブラックが宮田に向き直った。
「具体的に俺はどうすればいいのかな?」
 きょとん、とした宮田がブラックを見た。
「そんなん、知らへんわ」
「あ、そう」
 なんとなく予想はしていたブラックの背後で、長官の重く深いため息が聞こえた。
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