「ちょ、ブルー!」
起きてよ、とレッドが体を揺すっても、ブルーは目覚めなかった。途方に暮れるレッドをよそに、ブラックが懐からデジカメを取り出す。唖然とするレッドに構うことなく、ブラックは子供のようなブルーの寝顔を撮り始めた。
「ブラック、…何してるの?」
「馬鹿、基地のブルーファンに売るんだよ。高く売れるぞ〜」
可可、とブラックが高笑いした。後のことは考えていないらしい。
『マクマク〜、どうだ!私の枕の威力は!』
ネオロイザーの声に、レッドが振り向いた。
「皆を元に戻せ!」
『マクマク〜、お断りだす!その枕は特別製で、使う者の生体エネルギーを吸い取ってあの方にお届けするんだす!』
「はっ!」
ネオロイザーの声が終わるか終わらないかのうちに、ブルーが飛び起きた。ブラックが慌ててデジカメをしまいこむ。
「ど、どうした…?」
真っ青な顔のブルーにブラックが尋ねた。
「今、私が猛烈に損をする気がしたんです」
ああ恐ろしいとブルーは冷や汗をぬぐった。生体エネルギーをとられる前に目覚めたと言うことか。その商魂にブラックが恐れ入る。
「目が覚めてよかったよ」
レッドがほっと息を漏らす。
「こんな枕があっては商売上がったりですよ」
枕を手に取ったブルーがネオロイザーを睨んだ。シャイニングブレスをつけた右手を高く上げる。
「さっさと片をつけさせてもらいます。シャイニング・オン!」
ブルーの叫びと共に、さわやかな青の光が辺りを包んだ。
ネオロイザーが倒されると同時に、人々を眠りに縛り付けていた枕は消滅した。
「あら?私何をしていたのかしら」
「いけない、アポイントに遅れる!」
何事もなかったかのように日常に戻った人々を、三人は町の片隅で見守っていた。
「どうやら後遺症なんかはないみたいだな」
ブラックが言うと、レッドがよかったと頷いた。
「惜しかったんじゃねーの?あの枕、すごく気持ち良さそうに寝てたぜ?」
「よして下さいよ」
からかうようなブラックの声に、ブルーが眉を顰める。
「うん、でも、そうですね…」
何事かを思案するように、ブルーは指先を唇に当てた。
「ブルー…?」
レッドが小首を傾げる。ブルーは、先ほどまで自分が寝ていた広場を見つめていた。
シャイニンジャー秘密基地で、メカニック主任である宮田ナルは肩を叩いていた。
「お疲れですか?」
そばにいたメカニックスタッフが案じる。宮田は首を傾げた。
「うーん、なんかな。最近寝つきが悪いんや。疲れでもたまっとんのかな?」
「なら、最近いい枕がありますよ。名前が変なんですけどね」
不思議そうに目を瞬かせる宮田に、そのスタッフは枕の名を告げた。
「新商品です。どうぞ」
そう言われて、レッドはブルーが差し出したものを受け取った。枕である。
「あれ?これ…」
「こないだのネオロイザーの形と一緒だな。ちゃっかりパクりか」
ブラックが可可と笑う。
「人聞きの悪い。インスパイヤと言ってください。まあ、ネオロイザーに商標権はありませんがね」
説得が可能なら、工場の奥にでも監禁したかったとブルーは悔しがった。
「知ってるぜ。今この枕けっこうブームになってるんだろ?稼いじゃって、このー」
ブラックが笑いながらブルーの肩を叩く。眉を寄せたブルーが、口を開いた。
「あなたこそ、人の寝顔で荒稼ぎしたそうじゃないですか。いくら稼いだんです?」
「え、なんで知ってんの?」
ブラックが動きを止めた。もしやレッドがと振り向く間に、ブルーの頬がひくりと動く。
「カマをかけただけだったんですが…そうですか、本当にやっていたんですね…」
ふるふるとブルーの肩が震える。微笑むその顔が怖いと、レッドは思った。
「あ…いや、これは、さ…?」
ブラックが青ざめながら弁明する。ブルーはにこにことそれを聞いていた。
「ええ、わかってますよ?モデル料さえいただければ、何も言いません」
ぼそりと耳打ちされた金額に、ブラックの顔から全力で血の気が引く。
「ちょ、それは…」
「なんです?」
にこりと笑うブルーに、ブラックは言葉を失った。
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〔Mission13:終了〕