無敵戦隊シャイニンジャー

 巨大なカニのオブジェが照明に浮かび上がる。肉厚の足がぎこちなく動く様に、宮田はひどく満足したようだった。古き良き日本家屋を思わせるその店のたたずまいは、店内に至るまで徹底されている。よく磨かれた渡り廊下に、畳の匂いがほのかにする和室。かけてある掛け軸の意味はわからないが、風流だなとレッドは思った。
「さあ、飲んで食うで!」
 目の前に運ばれたカニ鍋はほくほくと煮立っている。土鍋からカニのいい香りが漂っていた。
「上機嫌ですね。珍しい」
「そうや。だってあたし、これ好きやもん」
 嬉しそうに宮田がカニを頬張る。幸せそうなその顔を見て、ブルーは思い出した。どこかの本で読んだことがある。同種族の肉は、たまらなく美味に感じるらしい。だから、人は人食を禁じているのだと。それが本当かどうかはわからないが、少なくとも今の宮田には当てはまるようだった。
「やっぱり、共食…」
「黙っとき!」
 宮田の見事な裏拳をブルーが直前に手で止めた。
「その、すぐ手が出るのはなんとかならないんですか。今日2度目ですよ」
「あんたがいらんこと言うからや」
「いつの間にそんな仲になったんだ、あんたら」
 からかうようなブラックを、宮田とブルーが同時に睨む。
「なんやそれ」
「どういう意味です」
「息、ぴったりだね」
 のほほんと感想を漏らしたレッドが、これ以上なく幸せそうにカニを食べた。
「美味しい!ありがとう、宮田主任!」
「そっか?そやろ?感謝しぃ!」
 あはは、と宮田が笑う。
 宴会は深夜まで行われていた。

「レッド、おい、レッド。ああ、だめだな、こりゃ」
 酔いつぶれたレッドを見て、ブラックは無理に酒を飲ませるのではなかったと悔やんだが、後の祭りだった。
「しょうがねぇ、俺はレッドを送ってくるわ」
「そうですか、では…」
 ブルーがちらりと傍らの宮田を見る。
「私は、宮田主任を送りましょう」
「そんなん、別にええに」
「そういうわけにもいかないでしょう?」
 そうかなぁ、と呟いた宮田が歩き出す。後に続こうとしたブルーの肩を、ブラックが掴んだ。
「なんです?」
「で、本当のとこはどうよ?」
 言われた言葉にブルーが眉を顰めた。
「まさか自覚ナシってんじゃないだろ?」
 うっすらと紅潮したブルーの頬にさらに赤味が増した気がした。不快そうに眉を顰めたブルーが、ブラックの手を払う。
「何を言ってるんです」
 そんなんじゃありませんよ、と言いながら、ブルーは宮田の後を追った。
「どうだか」
 にやにやとその姿をブラックが見送る。
「こっから見りゃ、お似合いに見えるぜ。なあ、レッド」
「…ん…」
 ブラックに支えられて寝入りかけていたレッドは、ひどく曖昧に頷いた。


 夜道は静かなものだった。
 とっくに終電が出てしまったせいもあるだろう。
 冷えた空気が酔いを吸い取って行くようで気持ちがいい、とブルーは思った。隣の宮田もいい具合に酔っているのか、無言だった。
『で、本当のとこはどうよ』
 ブラックの声が聞こえた気がして、ブルーは顔をしかめた。なにを馬鹿なことを、と目を瞑る。次の瞬間、現れた気配にブルーは宮田の前に躍り出た。
「な、なんや!?」
「静かに!」
 宮田を背後に庇ったままブルーが身構える。確かに暗闇の向こうにいる、その気配に覚えがある。どこからか流れてくる潮の匂い。これは確か…。
 ブルーが思案し始めた時、外灯の下にそれが正体を現した。
「ネオロイザー!」
 全身を覆った青い鱗、鎌のような手に見覚えがある。
 レッドを凍りつかせたネオロイザーだ。
「ギョーヌ!」
 宮田が叫ぶ。顔見知りなのか。
 悠然と立ち尽くすギョーヌの姿に、ブルーは違和感を感じた。
 手負いなのである。
「怪我を…?」
 焦燥しきったような様子のギョーヌの口が、緩やかに開いた。
『裏切り、者、め…』
 言うが早いか宮田に向けて、ギョーヌの口から虹色の光線が放たれた。宮田の体が硬直する。
「シャイニング・オン!」
 ブルーが腕を掲げて叫ぶ。その青い光りに包まれるように虹色の光線が溶けていった。
『な、なんだと…!』
「そうそう何度も同じ目にあったんじゃたまりませんよ」
 煌く青のシャイニングスーツを纏ったブルーが、シャイニングソードを抜いた。光の粒子で出来たその剣を身構える。
『おのれ…』
 ギョーヌが体を震わせれる。
『おのれええええ!』
 自棄になったように、ギョーヌがブルー目がけて突進した。
「離れて下さい」
 宮田に言って、ブルーは受けて立った。言われた宮田が後ずさる。
「玉砕覚悟で来たんですか?気の毒ですが、手加減はしませんよ!」
 ブルーがシャイニングソードでギョーヌを切り裂く。断末魔を上げながら、ギョーヌはブルーの肩越しに己の鱗を投げた。放つ最中から、体、手と順に消滅していく。それでも最後の一矢は宮田に届いた。
「痛!」
 掠めた痛みに、宮田が手をさする。
「大丈夫ですか?」
 変身を解いたブルーが駆け寄った。
「あ、平気や…ちょっと、かすっただけ」
 宮田の手の甲に、ギョーヌの鱗がつけた傷が一筋、ついていた。

 
 その様子を立体映像で見ていたギンザは、眉ひとつ動かさなかった。
「成したか。ギョーヌ」
 見事だ、と口にする。それはネオロイザーの戦士にとって、最大級の賛辞だった。


 翌朝、目覚めた宮田はベッドの上に見慣れぬものを見つけた。
 それは一見して鱗であるように思われた。
「なんや、これ…」
 伸ばした自分の手が視界に入った瞬間、宮田は硬直した。
 ベッドの上の鱗をつまんだ自分の手、その甲が鱗状にひび割れて、剥がれ落ちている。内に覗く赤い色は肉ではない。宮田の、本来の姿を現していた。


〔Mission18:終了〕

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