無敵戦隊シャイニンジャー

 シャイニングブルーこと斉藤貢は待っていた。
 斎藤寝具の近くにある公園は、オフィス街にあるせいか、夜は全くの無人だった。途切れがちな外灯に、蛾が寄っていくのが見える。風の合間に、通りを過ぎる車の音がした。
 以前、宮田とここに来たことがある。スーツの適合性でもめた際に、宮田が会社に来て、ブルーが付近にあった公園に連れ出したのだ。このベンチに座って話をした。
 よく晴れていた。もう随分遠い昔のことのような気がする。
 さわりと風が吹く。その気配に、ブルーは立ち上がった。
「お待ちしていましたよ」
 夜の闇の中から、その姿が浮かび上がる。
 黒いドレスを纏った宮田が、外灯の下へと姿を現した。
「今日はお供はナシですか?」
 戦闘兵がないのを見たブルーが言う。宮田が疲れたように微笑んだ。
「相手してくれる言うてんのが聞こえてな。失礼やろ?」
「確かに、そうですね」
 ブルーがシャイニングブレスを構えた。
「あんたがまともに変身するの、初めて見るわ」
「そうですか?」
 普通は邪魔するものですよ、というブルーに宮田は「せやな」と頷いた。
「でも今は、その光が見たい」
「残念ながらリクエストにはお応えできません」
 言ったブルーがブレスからシャイニングソードを引き抜いた。変身をしないまま、宮田に切りつける。咄嗟に腕で自分を庇った宮田の、真珠を模したブレスにひびが入った。
「なにしとるん!」
「戦闘ですよ。なにか?」
 宮田が腕を振り払う。弾き飛ばされたブルーが、器用にバランスを取りながら着地した。
「信条に至るまで心底ネオロイザーだと言うなら、そのままその腕で私を貫けばいい。出来ないのなら」
 言いながらシャイニングソードを構える。
「私は、あなたを助けます」
 真っ直ぐなブルーの視線に、宮田の心が揺れた。
 青く深い海のイメージがなぜか胸に押し寄せる。
「…あんた、変わったわ」
 レッド君のせいやな、と宮田は呟いた。
 ぱきん、と音がして真珠のブレスが壊れ始めた。同時に、宮田の体の崩壊が始まる。
 手の甲から、鱗状のひびが急速に広がった。腕、肩と息つく間もなく進んでいく。
「だけど、あたしは」
 宮田は言った。
「あかんのや」
 ひび割れていく宮田の体の変化に、ブルーが目を見張った。ステファン医師の報告書が頭をよぎる。予想より、ずっと早い。
「海、行けへん、ごめん」
 ぱきん。
 ひび割れて、剥がれ落ちていく鱗。
 崩れ始める宮田を見たブルーが、静かに宮田に歩み寄った。
 止めを刺してくれるんだろうかと見上げた宮田の腕を引き、抱き寄せる。
 ブルーは宮田を包み込むように抱きしめた。
「条件はなんです」
 ブルーが宮田の耳元で囁いた。
 抱きしめる腕に少しでも力を込めれば、そのまま手折れてしまいそうな脆さを感じた。
「崩壊を止める条件があるはずです」
 宮田の瞳が見開いた。
 ぱきん。
 またひとつ、宮田の鱗が落ちる。
「あかん」
 宮田が呟いた。呟く端から、頬に亀裂が入った。
 視線がブルーを通り越している。震えながら見ているのは、倫理とかいう価値観かもしれなかった。
「ダメや…!」
「答える気がないんですね。いいでしょう」
 どうせこの様子だって見ているに決まってると、嘆息したブルーが宮田の背に回した腕を掲げる。シャイニングブレスをその手首から外すと、彼は高らかに叫んだ。
「私でいいだろう!連れて行け!」

『ギンザ様』
 指示を仰ぐように振り返った鎧武者に、ギンザが静かに頷いた。
 映像の中のブルーを冷めた視線で見る。
『愚かな』
 呟く言葉が終わらぬうちに、ブルー達の転送が終了した。磁場が歪み、2人の姿がメインブリッジにいるネオロイザー達の目の前に現れる。
 転送の衝撃にしゃがみこむ宮田を庇うように、ブルーが立ちあがった。
 ギンザとブルーの瞳が静かに交錯する。
 ぴんと張り詰める緊張感に、その場の誰も動くことは出来なかった。


 朝を迎えた地上には、ブルーの手から外されたシャイニングブレスが残されていた。
 太陽の光を受け青く光るブレスは、どこまでも高く澄んだ空の色をしていた。


〔Mission21:終了〕
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