無敵戦隊シャイニンジャー

 シャイニンジャー秘密基地には、ブラックの悲鳴が響き渡っていた。
「あだだだだ、痛、痛いって」
「なによ、我慢しなさいな、このくらい!」
 言ったステファンが、ブラックの腰にやった手にさらに力を込める。ぎゃあ、とも、ぐえ、ともつかぬ悲鳴をブラックが漏らした。うつぶせになったまま、ぐったりと力を抜く。白目をむいている気がするのは、気のせいか。
「ふん、ようやく大人しくなったわね」
 ステファンが鼻で笑い、嬉々としてマッサージを続けた。見ていた長官の額に冷や汗が滲む。
「気分転換に、マッサージでもどう?」というステファンの言葉に、うかうかと乗ってきてみたが、これは…。
 確かに、気分は変わりそうだ。下手をすれば人生も。
「さ、長官もいかが?」
 にこりと笑ったステファンが振り返る。
 長官は自分の笑みが引きつるのを感じた。
「い、いや。ワシは遠慮しておこう」
 言いながら、後ずさる。ベッドに横たわるブラックがまだ死に体なのを見て、心の中で合掌しつつ、長官はそこを後にした。
 メインルームへの廊下を歩いていると、向こうから小走りにオペレーターの時田ナナが走ってきた。
「ち、長官、大変です…!」
「どうした?」
 青ざめたナナの表情に、異変を感じ取る。早足でメインルームに駆け込んだ長官を待っていたのは、メインルームに映るネオロイザーの本拠地だった。
「今まで宇宙空間にあったものが、大気圏を破って地上に降りようとしています…!」
 長官の後ろで、息を切らしながらナナが言う。その声を聞きながら、長官はモニターを凝視した。

 黄土色の壁に覆われた、ネオロイザーの本拠地はなにかの生物のようだった。壁の質感はぬめっていて、その外観はカブトガニを思わせる。その長い尾が、静かに地球に降りていく。
 北極の永久凍土にその先端が刺さる。深く食い込ませながら、ネオロイザー達の船が下降し始めた。
 ゆっくりと、しかし確実に地球に踏み入ってくる。
 長官は見ている光景が信じられなかった。
 呆然とする長官の周りで、各種のアラームやベルが鳴り響いた。オペレーター達が舞い込む通信に慌てて対応する。
「地球連合本部より通達!対ネオロイザー航空隊を出動させます!」
「馬鹿な!」
 長官は驚いた。軍隊で対応が出来るのなら、そもそも始めからシャイニンジャープロジェクトなど作られるはずがない。何を考えているのか。
 長官の言葉が終わらぬうちに、モニターの中、地球に下りようとしているネオロイザー達の船の周りに軍用ジェット機が現れた。
 大きさが、まるで比較にならない。獅子とアリのようだと、長官は思った。
 軍用ジェット機がミサイルを放つ。ネオロイザー達の船は、それを歯牙にもかけなかった。
「撤退させろ!」
 長官が叫ぶ。オペレーターが通信を飛ばす音が喧騒となってメインルームを包んだ。
 何度目かの攻撃の後、ぴくり、とネオロイザー達の船の外壁が動いた気がした。
 次の瞬間、何本もの槍状の突起が軍用ジェット機目指して放たれる。
「いかん!」
 やられると長官が思った瞬間、下から垂直に駆け上がった別のマシンが軍用ジェット機と突起の間にすばやく滑り込み、その突起を機体で粉砕した。黄土色の突起が、乾いて落ちる。基地内から歓声が上がった。
 太陽の光を浴びて輝く、青いボディ。
 シャイニングロボの一パーツである戦闘機だと、すぐに長官は気付いた。
 だが、戦闘機はブルーの担当だ。誰が乗っている?
「長官、レッドです」
 入った通信に、長官は幾分か安堵し、そして落胆した。心のどこかで、ブルーがそこにいるのではないかと思ったのだ。
「ああ、よくやってくれた」
「航空隊の撤退支援をします」
「頼む」
 長官の通信を聞いたレッドは、操縦幹を握り締めた。ネオロイザー基地が降り始めたと聞いて、慌てて飛び乗ったはいいが操縦に慣れているわけでもない。ナナが基地から常に操縦指示をしなければ、どこかで落ちていたかもしれなかった。
「ナナちゃん、ありがとう」
「い、いいえ。そんな。き、帰還まで、ナビ、しますね」
 小さく恥じ入るような声でナナが答える。旋回をしながら、レッドはネオロイザー達の船を見つめた。黄土色の壁が脈づいている。生き物のようだ。この中に、ブルーと宮田主任がいるのだろうか?
 この機体が見えればいい、とレッドはもう一度だけ大きく旋回をした。


 暗く、深く、落ちるような睡眠だった。
 十分に体力が回復した頃、扉の開く気配にブルーは目覚めた。
『リンゼ様』
 ギンザが大股にリンゼに近づいていく。白銀の鎧が、花園のようなここにはまるで場違いだ。
 少女の前でギンザが傅くのを、ブルーはまだ覚醒しきらない頭でぼんやりと見ていた。
 一礼をしたギンザがブルーを見やる。
『起きたか』
 自分を見据えるギンザの向こう、見える景色にブルーは飛び起きた。
 宇宙空間ではない。
 等しく暗く、星が瞬いているが、致命的に違うものがある。
 オーロラ。
 淡く紡がれた光のカーテンを凝視するブルーに、ギンザは告げた。
『喜べ。我等は地球に降り立った』

 同じ頃、宮田はひとり考えていた。
 地球に下りる理由が見当たらない。人類の宇宙技術はネオロイザーとは比較にならないほど遅れている。宇宙からの侵略を続ければ、遠からず地球はネオロイザーの手に渡っただろう。
「燃料はまだあったはずや」
 あと1年分は優に、と呟きかけて、宮田ははっとした。
 それが、なくなった?
 なぜ――――と思案した宮田の視界に、それが映る。かつては白銀の機体を誇ったこの船を侵食している、黄土色の脈づく壁。ぬめった質感に、ブルーがひどく不快そうな顔をしていた。
「お前か…!?」
 宮田の視線に応えるように、壁がどくんと脈づいた。


〔Mission23:終了〕

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