無敵戦隊シャイニンジャー

Mission24: 「多分・きっと・以心伝心」

 ネオロイザーの本拠地が地球に降り立ったというニュースは、衝撃をもって全世界を駆け抜けた。
 北極の氷壁に深く根を張った彼らは、しかし、それ以上動こうとはしなかった。
 その静けさが不気味であると、各メディアは一様に報じていた。

 同感だ、とレッドはモニターを見た。
 シャイニンジャー秘密基地のメインモニターに、常に映し出されているその姿。巨大なカブトガニのような形状で、黄土色の表皮は湿っている。地球に降下する際に至近距離で目撃したが、改めて生物のようだと思った。地球とは全く異なる文明なのだと実感する。
「あそこにブルー達がいるんだな」
 テーブルに突っ伏すような姿勢で顔だけを上げたまま、ブラックが言った。
「うん」
 レッドが頷く。
 モニターを見つめているレッドは、幾分思いつめているように見えた。座標さえわかれば、即座に打ち込んで乗り込んで行きそうな勢いだ。まずいな、とブラックは内心嘆息した。ブルーが連絡を寄越さないことで焦れるのはわかる。けれど、敵地に乗り込んだのだ。ブレスまで置いていっている。これでどうにかしろと言うほうが無理だ。
 はあ、と今度は口から息を吐いて、ブラックはブルーのシャイニングブレスを見た。シャイニンジャー基地のメインルーム、そびえるモニターの前にガラスケースに入れられて飾られているシャイニングブレスは、空の青さを誇っていた。
 じっと見つめていると、なにかを語りかけてくるようだ。
 錯覚に過ぎないかもしれないがと考えて、ブラックは自分も少なからず動揺しているのだと認めた。
「あー、まいっちゃうねぇ…」
 ふああ、とブラックが欠伸を漏らした瞬間、机を叩く音がメインルームに響き渡った。
「納得いきません!」
 続く怒声に、レッドとブラックが振り返る。長官の机の前に、地球連合の白い軍服を着た男が立っていた。
「なにがかね、芹沢二尉」
 きしり、と椅子を軋ませた長官が座ったまま告げる。芹沢、と呼ばれた男は歯を食いしばった。服の盛り上がりが、鍛えこまれた筋肉を示している。角刈りに、日に焼けた肌、細長い糸目と対照的に太い眉。えらの張った顔は生真面目そうでもあった。
「ネオロイザー基地が地球に降り立ったのです。攻撃のチャンスではありませんか。我々はこの日のために修練を積んでいたはずです!なぜ攻撃許可を頂けないのですか!」
「真面目だねぇ」
 揶揄するような、ブラックの間延びした言葉に芹沢は振り向いた。きつく睨みすえるような視線を、ブラックが受け流したまま茶を飲む。新調された湯飲みは、黒地に白い文字で「黒」と書いてある。ナナが用意したのだ。ブラックがずず、と茶を啜る音がメインルームに響いた。芹沢の太い眉が神経質に痙攣する。
「あんな民間人に、何が出来るというんです!」
 再び長官を向いて抗議した芹沢に、長官は片眉を上げた。指を組みなおし、息を吐く。
「ネオロイザーの初期侵攻時、どれだけ軍の人間が死んだと思っておる?なぜシャイニンジャープロジェクトが立ち上がったのか、よく考えてみよ」
「長官!」
「芹沢二尉」
 有無を言わせぬ長官の口調の強さに、芹沢が息を呑んだ。
 長官らしからぬ迫力に、普段は自分達に気を遣っていたのだなとレッドが思う。
「君とて、そこにいるレッドに命を救われたはずだ。違うか?」
 ぐ、と芹沢が詰まる。見る間に顔を紅潮させていった。恥ではなく、怒りでだ。
「え、オレ?」
 レッドがきょとんとした。
「俺は礼など言わん!」
 芹沢がレッドに向けて怒鳴る。
 彼は長官に敬礼すると、大股にメインルームを後にした。
「…オレ、なんかしたっけ?」
 レッドが唖然としたままその後姿を見送る。
「あれだろ」
 ブラックが煎餅に手を伸ばしながら言った。
「ネオロイザー基地が降りてくる時にお前がかばってやった機体。あれに乗ってたんじゃねーの?」
「その通りだ」
 ブラックの言葉を長官が肯定した。
「お前さんに助けられたのが、気に食わなかったんだろ」
 ぼりぼりとブラックが煎餅をかじる。
「そっか」
 なぜ怒られているのかの実感が無いまま、レッドは曖昧に頷いた。

 何枚目かの煎餅を口に運びながら、ブラックはブルーのシャイニングブレスを見つめた。
 やっぱりなんだか、呼ばれている気がする。
 うーん、と視線を巡らせた彼は、おもむろに立ち上がった。ぺたぺたと草履の音を響かせながらメインルームの扉へと向かう。
「ブ、ブラックさん?」
 扉の開いた先に、新しい茶を入れてきたナナがいた。
「あ、おかわり入れてくれたんだ。サンキュ」
 ブラックはナナが手にした盆から湯飲みを取ると、一気に茶を飲み干した。
「ぷは!やっぱ美味いや!ありがとね、ナナちゃん!」
 湯飲みを盆の上に置くと、にこりと笑う。ナナの胸がどきりと鳴ったのにも構わずに、ブラックは歩き出していった。



 ネオロイザー本拠地内の温度調整が完璧なのは助かった。こんなスーツだけでは危うく凍死するところだと、ブルーが息をつく。そのはずみで、目の前にあった白い花が揺れた。
 ネオロイザーの本拠地の中で、唯一空気の澄んだ部屋。ギンザ以外は立ち入りを禁じられているこの場所に、ブルーは入ることを許された。理由はわからない。ギンザは特にブルーになにかを告げることはなかったのだ。そして…
 ブルーは目の前にいる少女を見た。相変わらずどこも映していないような視線、心を閉ざしたような無表情さが、まるで人形のようだった。顔立ちが整っていることが冷たさに拍車をかける。時折、ウェーブのかかった長い髪がふわりと揺れた。
 この少女と、ギンザの関係。
 それもまたわからない。けれど、考えねばならないとブルーは思った。レッドでもブラックでもなく、今、ここにいる自分にしかできないことだ。
 彼女が動いたのを一度だけ見たことがある。この部屋にブルーが初めて入った時、共に侵入しようとした壁の「あれ」を排除した。そして、「あれ」と共にいる時に様子がおかしかったギンザ。宮田から聞いた過去の話。
『なにが起きたのかなんてわからへん。ただ、皆変わってしもうた。本来あんなに戦闘を好む種族じゃないんやで』
 思考を重ねるブルーの瞳に、光が宿る。
 確信には至らない。けれど彼は、手を伸ばせばそこに真実があることを知った。
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