無敵戦隊シャイニンジャー
Mission25 :「No justice,No future」
まだ夕方近くだと言うのに、垂れ込めた黒雲はまるで夜のようだった。降り続く小雨に、髪も腕も濡れて行く。
「風邪引くといけねーや。とっとと済まそうぜ」
言いながらブラックがシャイニングソードを構える。
「わかりました」
ブルーは答えた。その前髪を、雫が滑り落ちる。
次の瞬間、二人は同時に大地を蹴った。
「やめさせなきゃ!」
二人が戦う姿を見たレッドは顔色を変えた。
「レ、レッドさん…」
おずおずとナナに名を呼ばれたことで、ブラックの伝言を思い出す。レッドは足を止めた。
『なにがあっても来るな。信じろ』
踵を浮かせたまま、立ち止まる。ナナの視線が背中越しに伝わった。
レッドは中空を睨んだ。
前に、二人を信じきれなかったことがある。偽者が現れた時だ。あの時、ステファン医師に話をした。
『戦場に次は無い』
だから後悔を残さないようにしなければと言ったステファンの声音は優しかった。
なんと言ったろう、自分は。
「…ごめん…」
レッドは呟いた。
意を決したように一度だけ拳を握り、離すと、ナナを振り返った。
「オレ、あの二人を信じてる。でも」
不安そうなナナの背後、メインモニターに戦う二人の姿が映っている。なんて光景だとレッドは思った。
「どっちが傷つくのも嫌だ」
ナナを安心させるように、レッドが微笑む。彼はすぐに踵を返していた。
「レッドさん!」
ナナの声が背後から追う。レッドはもう振り返らなかった。
走りながらシャイニングブレスにコードを打ち込む。レッドの体を光が包み、次の瞬間、彼は公園へと移動をしていた。
「ブラック!ブルー!やめるんだ!」
突然の光と共に現れたレッドの姿に、ブラックとブルーが動きを止める。
基地と違う、冷え込みきった空気にレッドが息を呑む。剣呑な空気が棘のようだ。
公園内の小雨は止む気配を見せない。
ブラックとブルーの肩がせわしなく上下し、吐く息は白く濁っていた。
「…レッド…」
ブルーが呆然と呟く。
「お久しぶりですね」
皮肉じみたブルーの挨拶にレッドがむっとした。
「来るなっつったろうが」
ブラックが口元を拳で拭いながら言う。
「なに言ってるんだ!黙ってられるわけないだろう、こんなの…!」
レッドが抗議する。
「手ぇ出すんじゃねーぞ」
もう一度レッドに言い聞かせるようにブラックが告げた。その瞳をブルーが見透かすように覗き込む。
「…そういう、こと、ですか」
何かを確かめるように言い含んで、シャイニングソードを構えなおした。
「ブルー!」
レッドの抗議をブラックが手で制した。
「たまにはおにーさんに任せなさいって」
信じろよ、と小声で告げる。
レッドは二人を凝視した。対峙する二人が同時に息を吐き、その距離を詰める。
交差するシャイニングソードから、光の粒子が弾け飛んだ。
「ぐ!」
ぬかるんだ地面に足を取られたブラックがバランスを崩す。間髪いれずにブルーが足元を掬い、ブラックは尻餅をついた。
「チェックメイトです」
ブルーがシャイニングソードを高く掲げる。その光がブラックの瞳に映るのを、レッドは見た。
「だめだ…」
レッドは首を振った。
『信じろ』
ブラックはそう言った、けれど。
ブルーがシャイニングソードを振り下ろす。
「だめだ!」
レッドが二人の間に駆け込む。
「な!」
ブルーが驚く。振り下ろした腕は、そう簡単には止まらなかった。
ざく、と肉を抉るような音と感触。
ブラックをかばうように割り込んだレッドの右上から入ったシャイニングソードは、その顔面を撫で体を抉っていた。
顔を押さえたレッドがゆっくりとブラックに倒れこむ。
「おい!」
ブラックが慌てて抱き起こす。レッドが低く呻いた。右目付近が血に染まっている。レッドが手で押さえるその合間からも血が流れた。
「くそ!」
ブラックが作務衣の裾を噛んで裂く。止血をしようと当てる端から、黒い布地がじっとりと濡れていった。
「ブルー…」
レッドは、呆然と自分達の前に立ち尽くしているブルーを呼んだ。
帰ろうと言おうとして、もう声が出ない。
視界がどんどん赤黒いもので覆われていく。ひどく熱い。
なんだろう、これ。邪魔だな。
レッドはブルーに向けて手を伸ばした。
視界が歪む。映るブルーの顔は驚愕に青ざめていた。
気にすることなんか無いのに。レッドはゆっくりとブルーに微笑みかけた。
帰ろう。
どうしてだろう、伸ばした手が、ほんのわずかに届かない。
あと少しなのに、と思ったところで彼の意識は途絶えていた。
「レッド!」
ブラックがレッドを抱きかかえたまま叫ぶ。
伸ばされた手をブルーが掴もうとしたその瞬間、ブルーの体に重力がかかった。覚えのある浮遊感。ネオロイザーの本拠地へと移動がなされているのだと、ブルーは思った。慌てて、レッドを掴もうとした手を引っ込める。
『よくやった』
現れたネオロイザー基地、ギンザを始めとする幹部達が控えるメインブリッジで、ブルーは嫌悪感を隠そうとはしなかった。
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