無敵戦隊シャイニンジャー

「もう本当に良かった、良かったです〜!もう起きないかと思ったよお」
 おいおいと声を上げて泣く美沙にとまどいながら、レッドはそっとその頭を撫でていた。しがみつかれているせいで身動きが取りにくい。長官がごほんと咳払いをしても、美沙はどこうとはしなかった。
「長官…」
 医療ルームのベッドに半身を起こしたまま、途方に暮れたようなレッドの声に「そのままで構わん」と長官は告げた。
「どうだ、調子は」
「あ、大丈夫です」
「まだちょっと熱があるのよ。そのくらいになさいな」
 見かねたステファンが美沙を引き剥がす。美沙は大人しく椅子に座り込んだ。まだぽろぽろと涙を流している美沙を見て、レッドが少しだけ微笑む。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないです〜」
「さっきは良かったって言ったくせに」
 くすくすとレッドが笑い出すと、美沙の涙が止まった。それを見たレッドが長官に向き直る。
「手短に済まそう。ブルーの経緯はステファンから聞いているな?」
「はい」
「それで、お前が寝ている3日間に動きがあった」
「…はい」
 やや間を置いて、レッドは答えた。何事かを覚悟しているようでもある。
「対ネオロイザー地球連合本部は、シャイニングブルーの破棄処分を決めた」
「なんですって!?」
 聞いていなかったのか、ステファンが声を上げる。一同の注目を集め我に返ったのか、「ああ、失礼」と呟くと、ステファンは壁にもたれ直した。
「破棄、…って」
 言葉を噛み締めるようにレッドが言う。長官は続けた。
「ネオロイザー側に完全に寝返ったと解釈するそうだ。理由は」
「オレの、目…!?」
 長官の視線が自分の暗闇の部分を見ているのだと気付いたレッドは、呆然と呟いた。
「そんなの!」
 起き上がりそうになるレッドをステファンが押さえ込む。
「長官だって知ってるじゃないですか!ブルーは、宮田主任を取り戻そうと…オレだって…!」
「すまん」
 苦渋を滲ませた顔で長官は頭を下げた。その姿に、レッドが言葉を呑む。
「ワシの力不足だ…」
 会議で相当槍玉に挙げられたに違いない。以前議場に足を運んだことがあるレッドには容易に察することが出来た。
「そんなのって…」
「それだけではない」
 長官の後ろに立っていた地球連合本部の白い軍服を着た男が姿を現した。
「あ、確か…」
 以前長官に食って掛かった姿を見たことがある、とレッドは思った。
「芹沢だ」
 横柄で威圧的な物言いに美沙がむっとする。美沙の抗議する視線を鼻であしらって、芹沢は続けた。
「対ネオロイザー地球連合本部は、北極にあるネオロイザー本拠地に対しての攻撃を決定した。本日18:00。地球の命運を賭けた戦いとなるだろう」
「なにそれ!」 美沙が叫ぶ。
「美沙ちゃん」
「だって、レッドさん…!」
 美沙が抗議するのにも関わらず、レッドは黙って芹沢を見つめていた。
「別にお前に動けなんて言う気はないさ」
 芹沢が鼻で笑う。
「俺達だけで十分だ」
「懲りてないのね」
 ステファンの呟きに芹沢がこめかみを痙攣させた。次第に紅潮する顔を、ステファンが冷ややかな視線でみやる。
「さ、そろそろいいでしょ?患者なんだからもう寝かせてあげて。出口はあっち。とっとと帰ってくれる?」
 手を鳴らしながら、ステファンがよく通る声で言い放った。
「言われる間でもない!」
 芹沢が大股で退室する。長官が気遣わしげにレッドを見て、それに続いた。美沙も続こうと腰を浮かると、レッドがその手を掴んだ。
「レッドさん…?」
「あ」
 レッドは、言われて初めて美沙の手を掴んでいることに気付いたようだった。意外そうに手を見ながら、それでも離そうとはしない。
 片眉を上げたステファンがにやりと微笑む。彼は気を利かせたのか、医療ルームから出て行った。
「え、ちょ…」
 美沙がうろたえながら、ステファンが閉めた扉を見る。
「ごめんね」
 レッドに謝られて、美沙は慌ててかぶりを振った。
「そそそそんなことないです!」
 美沙には、なにがなにやらわからない。急に人がいなくなったせいか、白一色の医療ルームがやたらに広く感じた。秒針の音が妙に耳につく。
 緊張を自覚する前に、美沙の頭はパニックを起こしそうだった。
「美沙ちゃんと」
 ぽつりとレッドが言った。
 その声も手も熱っぽい。そのことがさらに美沙に拍車をかけた。
「行きたい場所があるんだ。いいかな?」
 レッドの顔は思い詰めているようでも、何気ないようでもあり、気づけば美沙は頷いていた。
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