中継基地に戻った芹沢は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
地球上で最速を誇る愛機を降り、地上を踏みしめても、生き延びたという歓喜よりも、悔しさが身を包んでいる。
『芹沢ァ!』
焦れたように叫んだブラックの声が耳にこびりついていた。
自分に、どうしろと言うのだ。
軍隊にはルールがある。飛び越えることなどできない。お前達のような気楽な民間人と一緒になどするな…!
飛んできたメカニックたちがすぐに整備に入り、基地は慌しさを増していた。全体が殺気立っている基地の中で、その声はやたらに間延びして聞こえた。
「芹沢さん」
振り返った芹沢の視界に映ったのは、シャイニングレッドこと青葉太陽の姿だった。目に当てた包帯が痛々しい。醸す雰囲気は以前と同じだということが、かえって痛々しさに拍車をかけていた。
「…何の用だ」
笑いにでも来たか、と芹沢は毒付いた。
「俺は何の力にもなれなかった…!今まで散々訓練して、死ぬ思いまでしてこれだ。笑いたければ、笑うがいい!」
背を向け怒鳴りつける芹沢に、レッドは言葉を失った。
ポケットの中にあるステファンのカードキーを握り締める。
「アンタに出来るのはオレの足になることだけだ、この馬鹿!くらいは言っていいんじゃない?」
そう言ってステファンは笑っていたが。
レッドは芹沢の背を見つめた。無力に嘆くその姿が、自分と重なる。
「お願いしたいことが、あって」
レッドの言葉に、芹沢が振り向いた。
「オレをあそこに連れて行ってくれないかな?」
馬鹿な、と芹沢は一笑に付そうとした。シャイニンジャーには転移装置があると聞いている。行きたい場所になど、好きに跳べばいいと言いかけて、芹沢はレッドの腕に何も巻かれていないことに気付いた。
「ブレスはどうした…!?」
「返した」
レッドは言った。
「でも、オレはあそこに行かなきゃいけないんだ」
「馬鹿な…!」
芹沢は驚嘆した。ブレスを捨てるなど、地球を捨てたも同然だ。
「シャイニンジャーでもない民間人を、なんだって俺が乗せねばならん!ふざけるな!」
腹の底から怒鳴って、芹沢が背を向ける。その向こうから、レッドは声をかけた。
「でも、芹沢さんは連れて行ってくれるよ」
「今、悔しいと思っているから」
頭に血が上る時は、血管が広がる音まで聞こえるものだ。芹沢はひとつ学習した。
シャイニンジャー秘密基地のメインモニター、その前に飾られたブルーのブレスの隣に、レッドのブレスも置かれていた。
炎を象る赤をたたえたブレスが、熱を持ち出したことに、その場の誰も気付いてはいない。
時は、静かに満ちていた。
〔Mission28:終了〕