無敵戦隊シャイニンジャー

 それは誰もが持っている。
 時に弱まることもある。くすぶることもある。
 けれど、決して絶えることは無い。

 ――正義の炎!

「シャイニング・オン!」
 レッドの叫びに呼応するように基地を飛び立ったシャイニングブレスは、炎と化し、北極のレッドに降り注いだ。巨大な火柱が、天と地を結ぶ。
「レッドさん!」
 基地にいた美沙はモニターを見て叫んだ。
「レッド!?」
 巨大な火柱を見たブルーが声を上げる。対峙していた黒武者も、宮田も、その炎に目を奪われた。
 北極の風が炎を凪ぐ。
 冷めた空気が炎を鎮めて行く。そこに残ったのは、まだ火の粉を放つ、真紅のシャイニングスーツを纏ったレッドの姿だった。
「はっ」
 その姿を認めたブラックが鼻で笑う。
「派手だねぇ」
 刃を合わせ、対峙するギンザの腹を蹴る。よろめいたギンザを受け止めた壁が、また崩れた。
『貴様…!』 ぎり、と歯を食いしばり立ち上がるギンザの前で、ブラックは笑った。
 やせ我慢の笑いとは違う、すがすがしい気分に心が躍っていた。叫びたい気分だ。
「リーダーのお出ましだ。盛大に祝おうや」
 どこにそんな余裕があるのか、ブラックが手招く。その手に導かれるように、ギンザは立ち上がっていた。

 炎の柱は瞬く間に消えた。けれど、見たものが間違いではないと全員の表情が告げていた。
「レッド君…」
 宮田が呟く。
 来て、くれた。
 炎の柱が見えた窓には、青空が広がっている。宮田の瞳が、呆然とその青さを写し取っていた。
 知らず、ドレスの裾を握り締める。そのわずかな変化に、黒武者は気付いていた。
 自分は、いつまでこんなところにいるのか。
 視線を降ろす。宮田の目の前で互いに剣を構えたまま、対峙するブルーと黒武者の姿が映った。
 兄だと、言った。
 覚えは無い。けれど、宮田の感覚のどこかが、それが真実であると告げていた。誰もが変貌し、変わり果てたあの瞬間。自分だけは何一つ失くさずに変わらないと思っていた。
 失くしていたのだ、最も大切な記憶を。
 宮田は自分を囲む光の檻を見た。
 こんなものが、あるから。
 いいや、違う。まるで自分は動こうとしなかった。もう一度、無意識に、強く裾を握り締める。
 目の前で剣を向け合う、どちらも大切な人だ。
 動かなければ、なにも変わらない。宮田の瞳が炎の余韻を残す空に向いた。
 勇気は今、レッドがくれた。
 後は自分が動くだけだ。
 宮田は唇を噛み締めた。どうにでもなれと、半ば自棄になり目を瞑る。そのまま、光の檻に向けて身を投げた。
「な…!」
 ブルーがその体を抱きとめようと手を伸ばす。
『馬鹿な!』
 黒武者が宮田に向けて駆け出した。
 初めに檻に触れたのが誰か、それを知る者はいない。ただブルーが檻に触れるその瞬間、部屋に青の光の洪水が起きた。

 高い――悲鳴だったように思う。
 レッドが一歩近づく度、「それ」は悲鳴を上げていた。ネオロイザー達の本拠地、彼らの言葉で「誇り高き馬」を示す船を覆った黄土色の皮膚に似たそれが、レッドから逃げるように引いていく。その変化に、レッドは気付かなかった。
 ただ、おぼろげに見えるその機体が美しいと思った。
 北極の太陽に照らされた、白銀の機体。ところどころ壊れ、汚れてはいるが、流形のフォルムがなまめかしい。
 レッドがまた一歩近づいた。
 ネオロイザー本拠地のハッチが開く。黒く溢れてこちらに向かってくるのは、ネオロイザーの戦闘兵達だった。機械で出来た体に、独特のペイントを施している。後から後から出てくる戦闘兵に、レッドはきつく唇を結んだ。

 あそこに、敵がいます。

 どこに、僕には見えない。

 誰も彼もが必死。守ろうとする、それのどこが悪いのか。

 ――正義の刃。

 いつかマザーから聞いた話を、レッドは思い出していた。人の行動、そのどこにも正義はないのだと。
 ではなぜ人は武器を持つのか、と聞いたレッドにマザーは答えた。
「人が、弱き者だから」
 神ならざるものだから。
 だから武器を持たねば、己の意思を通すことすらままならないのだと、マザーは言った。
 今の自分の姿は、まるでマザーの言葉を具現化しているようだ。
「どいて…」
 わななくその声が、戦闘兵に届くはずも無い。
 ブルー達を迎えに来た。それだけのことが、どうしてこんなに果たせない。レッドは拳をきつく握り締めた。
「そこをどけ!」
 振り上げた拳に怒りを込める。拳撃は炎となって、戦闘兵達を裂いていた。

 高音の悲鳴の余韻に、リンゼの瞳の影が薄れた。
 あの人が近づいてくる。一歩、近づく度にあれが引いていく。同時に、リンゼの意識がはっきりと覚醒しだしていった。
 近くで壁が崩れる音がした。誰が戦っている? 意識を向け、リンクさせる。それだけで、リンゼはそこで戦う人物の視界を手に入れることが出来た。
 埃と瓦礫で毛羽立った視界。リンゼがいる白い花で囲まれたこの部屋とは、まるで別世界のようだ。
 黒のシャイニングスーツを纏った人間が目の前にいる。肩で息をしていても、引く気配を見せない。
「潮時だな。そっちも限界なんじゃねえの?」
 ブラックが自分もよろけながら言った。
『く…』
 リンゼの意識を入れた誰かが呻く。耳の六角形のイヤリングが揺れる。髪が乱れ、白銀の鎧は大破している。荒い息が、限界を示していた。
 この腕を、私は知っている。
 リンゼは思った。
 誰?
 がち、と音がするくらいに歯を噛み締めて、剣を支えに立ち上がる。守らなければと、強い使命感に満たされながら。
『ここは通さぬ…!』
 この背の向こうに、主がいるのだ…!
『ギンザ!』
 リンクさせた意識の主を知ったリンゼは、顔色を変えて立ち上がった。この壁の先、戦っているのはギンザなのだ。駆け出すその足が、花弁を散らしていく。彼女が部屋を出た後、花々はゆっくりと色を失い、朽ちていった。


〔Mission29:終了〕

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