無敵戦隊シャイニンジャー

 メインルームに残ったレッドは、開いたノートを見ていた。
 あれから――なにか変わったろうか、自分は。
 悪意ある囁きは、いつでも心に響く。でも、それは今に始まったことじゃない。
 例えば、シャイニンジャーに選ばれた時。その力が、世界を壊すことも守ることも出来るのだと知った時。いつだって、無数にある未来の中から、レッドは選んできたのだ。
 マザーに会った時、胸を張れるだろうか。
 レッドはぼんやりと考えていた。なつめは、怒るかもしれないな。どんくさいと笑いながら。でも、もうブラックやブルーになつめの分まで怒られた気もする。
 唇が、知らず微笑んだ。
「レッドさん」
 急に視界に現れた美沙に、レッドは驚いた。対面から、テーブルに肘をつき、覗き込むようにレッドを見ている。
「美沙ちゃん!」
「なんですか、ぼうっとして。何度も呼んだんですよ」
 ごめん、気付かなかった、とレッドは謝った。決まり悪そうに言う姿に、美沙は思わず吹き出した。
「美沙ちゃん?」
「ごめんなさい。だって、レッドさんが、あんまりレッドさんだから」
 良かったと言って目尻の涙を拭う美沙に、レッドは微笑んだ。
「そりゃ、オレはオレだよ」
「そうなんですけど」
「でも、ちょっと卑怯になったかも」
 え、と美沙が意外そうな顔をした。レッドが続ける。
「あまり美沙ちゃんと離れたくないな、なんて思ってる」
 そこにあるのが恋愛感情なのか、否か――とにかく、レッドはそう言った。瞬間、周りで慌しく動いていたスタッフの動きが止まったことに、レッド達は気付かなかった。
「レッドさん、それって…!」
 美沙の顔が希望に華やぐ。
「うん。一緒の大学に行こうね」
 ほがらかに告げるレッドの顔には、邪心のかけらも見られなかった。


 その日、全世界に向けた会見が行われた。
 今まで地球を脅かしていたネオロイザー達の完全なる駆逐、その立役者たるシャイニンジャープロジェクトの解散。
 白を基調とした会見場に三人を送り出す舞台袖で、野村長官は改めて三人に告げた。
「よく、やってくれた。礼を言う」
「長官…」
 頭を下げる長官にとまどうレッドをよそに、ブルーは返礼し、ブラックは軍隊式の挨拶で長官の礼に報いた。
「いい上司でしたよ、あなたは」 ブルーが言う。
「ご苦労さんだぜ」 可可、とブラックが笑った。
 それら全てを懐かしむように見て、長官は彼らを会見場へと送り出した。報道陣のフラッシュがさながら光の洪水のようだ。
 相次ぐ記者の質問に、レッド達はよどみなく答えていた。ありのままを答えればいいという長官の言葉に背を押されてのことだったかもしれない。
「不安はなかったのですか?」
「ありませんでした」というレッドに対し、ブルーは「多大な不安がありました」と告げた。
「しかし、己の使命を投げ捨てるわけには行きませんでした。この背には、地球の命運がかかっているのだと自分を奮い立たせ…」
 完全に営業モードに入っているブルーを見たブラックの表情はひきつっていた。余談だが、この時斉藤寝具の株価は急上昇したという。
「途中、止めたいと思ったことは?」
「なかったっつったら、嘘だろ」
 ブラックが笑いながら答えた。そういった質疑応答が何度か相次ぎ、そろそろ質問も出尽くしたという頃、司会者が終了を告げた。
「では、最後にひとつだけ」
 片手を上げた記者が、シャイニンジャーの三人を見渡しながら、聞いた。

「もう一度、ネオロイザーに匹敵する脅威が現れたとして、またシャイニンジャーをやりますか?」

 質問を聞いた三人が互いに顔を見合わせる。
 カメラの照明が、互いの表情を浮かび上がらせる。彼らは、ほぼ同時に口を開いた。

 答えは、君の心が知っている。


【無敵戦隊シャイニンジャー・完 2005.10.5〜2006.1.31】
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