無敵戦隊シャイニンジャー

MissionExtra7:「湯煙旅情だ! シャイニンジャー」

 目覚ましをかけたはず、だった。
 シャイニングレッドこと青葉太陽は、今朝未明までラーメン屋でアルバイトをしていた。店の閉店が深夜二時。後片付けを終えて、アパートに帰り着いたのは早朝四時の話だ。
 レッドがぼろぼろのアパートを見上げる。三ヶ月前まで基地で暮らしていたレッドは、当然ながらプロジェクト解散と同時に路頭に迷う羽目になった。そんな時、長官がアパートを紹介してくれたのだ。長官は、他のメンバーのその後の進路にも心を砕いていたと聞く。
 ありがたいな、とレッドは改めて感謝した。
 そんな長官から、メッセージが届いたのは一月ほど前のことだった。
『それぞれ新天地で落ち着いた頃だろう、一度、慰労会を行いたいと思う』
 行き先の決定には紆余曲折があったらしいが、結局は温泉に落ち着いたようだ。スケジュールも皆でどうにかやりくりしたらしい。全てが伝聞系なのは、レッドに特に希望がなかったせいだ。
「オレはいつでも。みんなに会えるなら、どこでも」
 ブルーが聞いたら、眉をひそめながら「いいですね、暇人は」と言いそうだとレッドは思った。「まあ、いいじゃねーか」とブラックがとりなす光景が目に浮かぶ。
 また、みんなに会えるんだ。
 レッドは六時に目覚ましをセットし、幸せな気持ちでまどろんだ。

 そう、確実に目覚ましをかけたはずだったのだ。

「レッドさん、起きて起きて!」
 アラームの代わりにレッドの耳に届いたのは、美沙の悲鳴に近いような声だった。
 初め、レッドは夢だろうかと考えた。それにしてはやけにリアルだ。
「お部屋が滅茶苦茶にされちゃうよう!」
「美沙ちゃ……え!?」
 揺すられるに至って、夢ではないと飛び起きる。狭いアパートの個室内に、幾人かの人影が見えた。
「おーおー、きっちり掃除しちゃってまあ」
 無遠慮に台所を眺めている男。黒の作務衣に首から下げた数珠。不釣合いな茶髪に、豪快な笑い声。
 レッドは目を丸くした。
「ブ、ブラック!?」
「お、レッド起きたか。おはよーさん!」
 まるで悪びれることなく、ブラックは可可と笑った。
「疲れてるんじゃないの? もう少し寝たら」
 優しげな声と共に、長い指先が額に触れた。金髪の淡い光沢に、天使の笑み。けれど、がっしりした体つきは間違いなく男のもので――
「ス、ステファン医師」
「ハイ、久しぶりね」
 艶やかにステファンが微笑んだ。
「起きたのなら仕度をなさい。皆、待っているんですよ」
 冷え切った声に玄関を見やる。仕立ての良いスーツに、きっちりと巻かれたネクタイ。憮然とした表情でそこにブルーが立っていた。
「いいじゃねーか。お前さんもやったらどうだ? レッドのお宅拝見!」
「人の家を漁るような趣味はありませんよ」
 ブラックの言葉に、ブルーがそっぽを向く。
「何気取ってるんや、なあ?」
 やはり勝手に入り込んでいる宮田が、傍にいるナナに同意を求めた。
「え、ええと……」
 入っている自分には言う資格がない気がする。ナナはおろおろとレッドを見た。
「ナナちゃん、宮田主任」
「お、お久しぶりです」
「元気そうやな」
 快活に笑った宮田が、当然と言わんばかりに傍のラックに手を伸ばした。
「レッド君、アルバムあらへんの? あたし結構アレ見るの好きなんやけど」
「え、ええと……」
 寝起きの頭をどうにか叱咤しながら、レッドは答えた。
「子供の頃のは火事で焼けちゃったし、後は、あんまり撮る暇なくて……」
 瞬間、全員の動きが止まる。ともすれば凍りつきそうな気配を笑い飛ばしたのは、ブラックだった。
「そっかそっか!」
 大股にレッドに歩み寄って、その背を叩く。はずみでレッドがむせた。
「じゃあ、今回撮りまくろうぜ! なあ!」
「あ、うん」
 じゃあ仕度しろよ、と言われてレッドは目をこすった。
「大丈夫ですかぁ?」
 美沙が心配そうに覗き込む。
「うん、おかしいな……目覚まし、かけておいたんだけど」
 手元の目覚ましを不思議そうに眺める。
 目覚ましは、六時五分前で電池が切れていた。
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