人類文明機械式
第6幕【コア】核:命
さて、ヴァンガッシュはその後どうしたか。
彼が作ろうとした命はどうなったのか。
私にはわかりかねます。私に目はないのです。
おろかなヴァンガッシュは己の罪を悔い、未来永劫語り継がせるためだけに私を作りました。ただただテープを巻き戻すかのように話し続ける存在。それが私にございます。私は私が話す場を舞台にたとえ語って参りましたが、あるいは朽ちた荒野にただ戯言を述べているにすぎないのかも知れませぬ。
わずかに聞こえるこの音が、雨なのか拍手なのかも判断がつきかねます。
私は今宵お集まりいただいた皆様に伺いたい。
風は吹いていますか?
緑は芽吹いていますか?
命はそこにありますか?
あるのであればこれ幸い。ゆめゆめお放しなさいませぬよう。
なければないでこれ幸い。もはや悲しむ者すらおりますまい。
物語はこれにて終幕でございます。
お帰りはあちら、右手奥の出口からどうぞ。
再演は、いつでも行っております。
貴方様の気が向いた時にお立ち寄りいただければ幸いです。
では皆様、良い夢を。
話し続ける機械の姿形はマイクスタンドに似ていた。破れたシルクハットをかぶった頭部のスピーカーから、調子のいい声があたりに広がる。
荒涼とした砂漠のような大地に、その声に耳を傾ける者はいない。
誰も聞く者のない話を、機械はプログラムに添って話し続けた。
乾いた風が吹く。水分を失いきった土がぱらぱらと音を立てて転がった。
厚く覆った雲が割れ、陽光が差し込む。
機械のかぶっているシルクハット、その破れた部分に芽生えた小さな双葉が、両手を広げるようにして太陽を迎えた。
【人類文明機械式・完 2005.7.4〜7.13】
Copyright (c) 2005 mao hirose All rights reserved.